テレビ界で進む体育会系文化への嫌悪感 ヒロミにノブ…人気MCの共通点は「愛妻家」?

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 絶対強者たちが、次々と追い込まれた東京オリンピック。渡辺直美さんを豚に例えた元電通のクリエイター、不倫がバレた瀬戸大也選手、障害者いじめを嬉々として語っていた小山田圭吾氏、そして女性選手の金メダルを勝手に噛んだ河村たかし名古屋市長。「女性がいる会議は話が長い」と発言した森喜朗氏は、バッハ氏の話の長さをどうとらえただろうか。

 強い者がやりたいようにやる、下級生や弱いヤツは黙ってそれに従え。笑うな、休むな、女は黙ってろ。そもそも顔の可愛い女以外は女と認めない。悪しき体育会系のイメージはこんなところだろうか。元ラグビー部の森会長や、体育会系のコネの強い電通、瀬戸選手の振る舞いはその悪印象を上塗りした。運動選手でないにしろ、小山田氏や河村市長も強者の論理を振りかざして暴挙に及んだ点では、実に体育会系的だ。

 こうした「悪しき体育会系」文化への嫌悪感は、ここ数年で加速したのではないか。なかでも顕著だと思ったは、テレビ番組のMC陣の変化である。たとえば、とんねるずの石橋貴明さん。彼は帝京高校の野球部出身だが、実に体育会系的なキャラだ。男性芸人やスポーツ選手とつるみ、「男気ジャンケン」のような、無理強いして高額なものを買わせる企画は体育会系の飲み会の再現のようだった。そして美人の女性タレントにベタベタと触る一方、「ブス」と決めた相手には冷たい「食わず嫌い王決定戦」や「うたばん」。モーニング娘。の保田圭さんへのイジリなどは、見ていて少し辛いときがあった。そんなタカさんも「みなさんのおかげでした」の終焉に伴い、テレビではなくYouTubeに軸足を移さざるを得なくなった。

 他にも枕営業疑惑で名前の出た島田紳助さんや、女性蔑視発言で炎上したナインティナインの岡村隆史さん、後輩にペットボトルを投げつけたTKO木下さんもいる。上下関係の厳しさと男社会という点で、お笑い界と体育会系思考は親和性があるのだろう。高圧的な物言いの自覚がないという点では、熱中症の疑いがあるスタッフを茶化して批判された安藤優子キャスターも当てはまる。弱い立場の人には配慮なんてしなくていい、と考える人間に男女の別はない。でも、そういうMCやキャスターの番組は次々と終わっているのが実情だ。

 そうした中で、とても特異なポジションにいるMCがヒロミさんではないだろうか。元暴走族で、口調も荒っぽい。でも、嫌われるどころかMC番組が増えているのである。

ヤンチャ系の理想形? 男気あふれる面倒見の良さと、「愛妻家」という強み

 10年ほど芸能界を離れていたヒロミさんが、バラエティに復帰したのは2013年。堺正章氏にタメ口を聞いて「干されていた」という噂がまことしやかに流れていたが、復帰後には双方がネタにして事実無根であることが判明。彼の復帰を心待ちにしていた業界人も多く、「八王子会」の代表としても有名だ。フワちゃんやローランドさんなど、若きカリスマたちも名を連ねていると言う。

 ヒロミさんの口調はラフだが、ヤンチャさを過剰に出すこともない。かといって物分かりのいい仕切りばかりでもない。ただ、共演者の良さをうまく引き出す術は断トツだ。俺がイジッてやるというやり方ではなく、相手が話しやすいように振るのである。しかも、相手の年齢や性別、肩書で態度を変えず、フラットなのだ。これはすごいことだ。体育会系的な思考と正反対である。

 小山田氏の炎上しかり、昔の悪事が掘り返されることも増えてきた。それによって致命傷を負う有名人は後を絶たない。しかしヒロミさんは、暴走族時代のエピソードを話すことはあっても、逮捕歴は出てこない。女性スキャンダルさえない。ヤンチャ系ならではの軽やかさもありながら無傷、しかも愛妻家。炎上を怖がるテレビ局側にしてみれば、キャスティングしやすいに違いない。

 冠番組が数年で増えたMCといえば千鳥も挙げられるが、彼らもヒロミさんと共通点が多い。無頼派の大悟さん、愛妻家のノブさん。大悟さんは浮気報道が続いたが、ぶっきらぼうな中にも含蓄ある言葉を繰り出すことには定評があり、後輩からの信頼も厚い。一方、ノブさんは愛妻家として知られ、女性スキャンダルは出てこない。ヤンチャだけど男気と人情にあふれる愛妻家。二人それぞれの持ち味を合わせれば、まさにヒロミさんであり、日本人が描くヤンキーの理想像になるのではないだろうか。

 弱い立場の相手への振る舞いが注目されるようになった今、後輩や妻に対する態度は、人気MCとしての適性をはかる一つの物差しなのかもしれない。思えば五輪開会式に出演した劇団ひとりさんも、芸風はクレイジーだが女性スキャンダルは一切出ていない。東京オリンピックの終幕とともに、悪しき体育会系的文化も終わりに近づいているのかも。そんな予感がする夏である。

冨士海ネコ

2021年8月12日掲載

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