「夏ドラマ」総ざらい 辛口コラムニストが「毎回楽しんでます」と断言する作品は？
コロナ禍で外には出られないものの、テレビを見ても五輪ばかり。スポーツには大して興味はないが、見るべきドラマもないと嘆くあなたに、辛口コラムニストの林操氏が今夏の連ドラを総ざらい。中でもお勧めのドラマとは？
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アナ：7～9月期の民放連ドラ、いわゆる夏ドラマも序盤を終えて中盤に差し掛かってきました。非国民生活センター・TV主席研究員の林操さんと一緒に見ていきます。
林：いや、いいでしょ、夏ドラマ。
アナ：おお、いいですか、夏ドラマ。
林：いやいやいや、「見なくてもいいでしょ、夏ドラマ」って話。
アナ：なんだ、そっちの「いいでしょ」ですか。林さん、1～3月期と4～6月期の連ドラは豊作だと評価されていましたが、今期はNGと？
林：ドラマに限らずニッポンのTV全般にとって7～9月期は昔っから夏枯れシーズンであるうえに、今年はコロナ不況とオリンピックがあるせいか、連ドラつくる側に脱力の気配がありあり。カネも削られ、枠も削られ、裏は五輪で数字も持ってかれ……じゃ、ドラマつくる側も力が入らないわな。
アナ：確かに制作費の抑制は続いていますし、五輪中継でドラマの放送時間が減って視聴率も下がっていますね。
林：そうなることが随分前からわかっていたクールだもの、企画段階から手ェ抜き放題だったとしか思えない連ドラがゴールデン帯（夜7～10時）、プライム帯（夜7～11時）に何本もあって、たとえば……
◆「彼女はキレイだった」（フジ系・火曜9時～）
◆「プロミス・シンデレラ」（TBS系・火曜10時～）
◆「推しの王子様」（フジ系・木曜10時～）
◆「＃家族募集します」（TBS系・金曜10時～）
◆「ボイスII」（日テレ系・土曜10時～）
◆「ボクの殺意が恋をした」（日テレ系・日曜10時30分～）
……あたりはワタシ、初回か2話目くらいで見切ってます。そろそろ連ドラ予約もキャンセルしようかな。ハードディスク容量がもったいないんで。
アナ：1週間に10本あるプライムタイムの民放連ドラのうち、6本がそういう評価ですか。それは厳しい。どんなところに問題があるんでしょう？
関テレ最終作
林：典型的なのは「彼女はキレイだった」かなぁ。特に技も数字も持ってないジャニーズ君（Sexy Zone・中島健人）が主演なのに、企画が韓国ドラマのリメイク。食堂にたとえるなら、肉屋から押し付けられた冷凍焼けの輸入チキンを客に出さなきゃいけないのなら調理や盛り付けには多少なりとも凝ればいいのに、古い業販の唐揚げ粉まぶしてテキトーに揚げてフチが欠けた皿で出すような仕事っぷりですわ。
アナ：フジ系の火曜9時枠は、系列の関西テレビ制作枠で、傑作・成功作が少ないとの指摘は長らく林さん以外からも出ていました。そのせいなのか、このドラマ枠は今期で廃止となる予定で、「彼女はキレイだった」は関テレ枠の連ドラとして最後の作品です。
林：傑作成功作が少ないというより、駄作・失敗作が目白押しという枠だったけれど、それでも前期（4～6月期）の「大豆田とわ子と三人の元夫」は、視聴率としては失敗ながら作品の出来としては傑作だったけどね。これで関テレ枠も底を打って、いい方向に変わっていくのかなと、ちょっと期待してただけに、今期の「キレイだった」にはがっかりさせられました。
アナ：なるほど。
林：まぁ一方で、「これこれ、このテキトーさ、このギョーカイさが関テレ枠だよね！」という屈折した喜び方もあるわけですが、そのテキトーさ、ギョーカイさ、つまりはダメさがついに消えるというのも、喜ぶべきか悲しむべきか。どうせ今期が最後・最期なら、ここにこそ「大豆田」を持ってくればよかったのにという気もするけれど、有終の美なんて気の利いたことができないからこそ消える枠なんだろうしなぁ。ニッポン民放連ドラの右肩だらだらダダ下がりの退潮・衰退の象徴ですわ、「彼女はキレイだった」は。
アナ：……他の4本についても低評価の理由をうかがおうと思っていたのですが、さらに気が滅入りそうなので止めにします。
林：じゃあ、ひとつだけ言わせて。「プロミス・シンデレラ」は、TBS制作なのに関テレ枠の呪いにかかったようなドラマになっちゃってます。主演の二階堂ふみは朝ドラ「エール」（20年）の二階堂じゃなくて、「ストロベリーナイト・サーガ」（19年）の二階堂に戻っちゃってるし、脚本の古家和尚は関テレ枠ドラマの仕事が多い人だし。
アナ：お、確かに。関テレ枠の呪いですか。ますます気が滅入る……。
林：もひとつ、「ボクの殺意が恋をした」のメイン脚本の徳永友一も「ストロベリーナイト・サーガ」の脚本チームの一員だったし、「推しの王子様」も脚本担当のうち阿相クミコが関テレ枠の怪作「後妻業」（19年）の共同脚本で……
アナ：もう結構です！
林：わかったわかった、わかりましたよ。では、残念ドラマについて別の視点から。
アナ：お願いします。
林：今期の連ドラ全般を見てみると面白いことに、ワタシから見て出来はいいのに数字は悪いという作品がないのよ。さっき挙げた、すでに視聴停止状態の6本は揃いもそろって、出来も残念なら視聴率も残念。
アナ：言われてみると、今年これまでは、先ほど話に出た「大豆田とわ子と三人の元夫」のほか、「コントが始まる」（4～6月期）や、「俺の家の話」「にじいろカルテ」（以上、1～3月期）など、平均視聴率が2ケタに届かなかったものの林さんや世の評価はかなり高かったという作品が目立っていましたが、一方、今期はそういうドラマが見当たりませんね。
林：そうそう。どうせ夏枯れ、五輪枯れのクールなんだから、変わったこと、新しいことを試してみればいいのに、出演者の顔ぶれを眺めるとデッカいジムショの名が額に焼印で押されてるような主演・助演がずらりで、オンエア見てみりゃ“芝居以前の何か”を披露してくれてるという、絵に描いたようなアンシャン・レジームの旧態依然。国営工場が十年一日で造り続けてる古臭いモノだけがポツポツ寂しく並んでる国営デパート状態だから、民放の連ドラで進んでるのはガラパゴス化じゃなく旧ソ連化だよ。
アナ：なるほど。
林：オリンピックの運営でズダボロになっているような極東の島国からは、ドラマが海外に討って出ていくようなグローバル化は難しいでしょ？ それならいっそ、稀少で貴重で人の眼を惹いて商売にもなるガラパゴス化を目指した方がいいくらい。考えてみたら、「大豆田とわ子」や「コントが始まる」「俺の家の話」「にじいろカルテ」なんてのは、ガラパゴス化に成功したドラマだったのかもしれない。
アナ：独自に進化したからこそオリジナリティが高くて、その結果、世界中によく知られるようになった生物が、ガラパゴス諸島にはたくさんいますからね、ゾウガメやイグアナ、グンカンドリなどなど……。
林：工業製品ではないドラマにとっては、ガラパゴス化こそがグローバル化への入り口だったり近道だったりするのか。ガラパゴス化は進化の袋小路だと言われるけれど、旧ソ連化なんて進化の拒否で、停滞あるいは後退だからね。
アナ：さて、7～9月期の連ドラで、林さんが中盤以降もまだチェックを続けている作品はどれですか？
林：「毎回ちゃんと見てます！」と胸を張れるのはもう、2本になりました。そのうち「楽しんでます！」とまで言えるのは1本だけ。
アナ：おお、どんどん絞られていきますね。教えてください、どのドラマですか？
林：まぁ、そう焦らず。まずは、連ドラ録画はしているけれどチェックはサボり始めた作品からお話しすると……
◆「ナイト・ドクター」（フジ系・月曜9時～）
◆「緊急取調室」（テレ朝系・木曜9時～）
……の2本です。
アナ：いずれも視聴率が好調な作品ですね。
林：さっき、視聴率の低いドラマは出来も悪いというのが今期の特徴だという話をしたけれど、その逆が成り立つのも、この7～9月期の特徴かも。「ナイト・ドクター」も「緊取」も、特に質が低いわけじゃなく、ただ、医療モノと捜査モノ、特に医療モノはこれまでさんざん見せられ続けてきたので、個人的にもうホントにお腹いっぱいなのよ。
アナ：コロナ禍が始まったころ、医療ドラマが減ったと指摘されていましたが……。
林：コロナ禍が進んで医療従事者が戦前の兵隊さんみたいな具合に妙な英雄視をされるようになってきたら、また医療モノが復活してきたね。見るのも嫌とまでは言いませんが、たとえば、江戸時代へのタイムスリップなんていう飛び道具を使った「JIN－仁－」（09年・11年）くらい大胆に、いっぺん現実からドーンと離れてみるような作品じゃないと、なかなか食指が動きません。
アナ：一方の「緊急取調室」は、捜査モノであり、また、シリーズものでもあります。やっぱり、お腹いっぱいですか。
林：まぁね。ただ、今シーズンの最初の2話は「ちゃんと見ました！」どころか「がっつり見入っちゃいました！」という具合だったけれど。
アナ：あ、桃井かおりさんですね、学生運動の伝説的なリーダーで、今になってハイジャックを起こす役で出演された……。
林：そうそう！ あの癖、あの濃さ、あのコクを、久しぶりにTVでとっぷり味わえて嬉しかった。食傷気味の捜査モノ、食傷気味のシリーズものに添加する食欲刺激剤としちゃ最上級でしょう。タイムスリップが「仁」をこれまでにない医療モノに変えたように、桃井かおりは「緊取」をこれまでにない捜査モノに変えた……と言ったら、言い過ぎでしょうが。
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