「夏ドラマ」総ざらい 辛口コラムニストが「毎回楽しんでます」と断言する作品は?

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「ハコヅメ」の良さとは

アナ:民放のプライム帯の連ドラ10本のうち、序盤でチェックを止めたという作品が8本挙がりました。となると、林さんが今期の夏ドラマで今も見続けているのは……

林:そう、

◆「TOKYO MER~走る緊急救命室~」(TBS系・日曜9時~)
◆「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」(日テレ系・水曜10時~)

……の2本です。

アナ:これまた視聴率のいい作品ですし、あれ……これまた医療モノと捜査モノです!

林:そうなんです。

アナ:では、医療モノの「TOKYO MER」と捜査モノの「ハコヅメ」が、お腹いっぱいのはずの林さんのお腹にさらに入る理由を教えてください。

林:「MER」は、すでに他でもよく言われてますが、戦隊モノ的、あるいは「アベンジャーズ」的な要素をプラスしたことが目新しかったというのがあるね。元来、医療ドラマではチームものは珍しくなかったので、そこに“戦うチーム”であるスーパー戦隊やアベンジャーズを重ねることには意外なほど違和感がない。実際、もう20年も前に「救急戦隊ゴーゴーファイブ」という戦隊モノが作られてくらいだし。

アナ:ああ、ありましたね、「救急戦隊」。

林:ウチじゃ最近「MER」のことは「爆走戦隊・医レンジャー」呼ばわりです。ただ、大人の医療モノ飽食患者に処方する薬としては、スーパー戦隊もアベンジャーズも、ちょっとシロップが強すぎる小児薬系。ワタシがそろそろ飽きてきちゃったのは、それが理由かなぁ。

アナ:まだ見続けている2本のうち「楽しんでます!」と胸を張れない方の1本が「MER」なんですね。

林:正解。

アナ:では、「楽しんでます!」と断言できる作品というのは……

林:「ハコヅメ」です!

「ハコヅメ」の凄さとは

アナ:もう見飽きたという捜査モノである「ハコヅメ」をそこまで高く評価される理由は何でしょう。

林:戸田恵梨香、だね。やっぱり。

アナ:思い返してみれば、林さんは「大恋愛~僕を忘れる君と」(18年)での戸田さんの演技を絶賛していましたね、中嶋朋子からミア・ファロー、シシー・スペイセクまでを引き合いに出して。今回もやはり好演されていますか、戸田さん。

林:今シーズンの「緊急取調室」で桃井かおりが果たした役割を、「ハコヅメ」で戸田が担っている形ですね。交番勤務の婦警コンビの先輩格を演じるのが戸田でなかったら、後輩役の永野芽郁はあそこまでうまく見えなかったし、「ハコヅメ」はフツーの水準作になっていたんじゃないかと。

アナ:おお、そこまで。

林:戸田、別に大熱演というわけではないんですよ。これまでのところストーリー上、“今までに見たことのなかった戸田”を演じる必要性も出てきていないし。ただ、警察学校をトップで出た刑事が交番勤務に移されて、ともすれば足手まといにもなる後輩とバディを組まされて、でも、その交番勤務には何か裏があって……というシチュエーションを、淡々と的確に演じているのがさすがだなぁと。

アナ:「淡々と的確に」というのは、まさにそのとおりですね。

林:見る側に不要な引っ掛かりを感じさせるような余計な芝居をしないところなんて、もはや大女優の域。だからこそなのか、戸田を画面に収める側の仕事も細かくて、刑事課から交番に“格下げ”された点を強調するシーンでは戸田の制服姿を微妙にダサく撮る一方、刑事と一緒に捜査するための私服のスーツ姿はスマートに撮るし、制服に戻った姿も、それが事件解決後であればちゃんとカッコよく撮ってある。

アナ:言われてみれば、睡眠時間が短いという設定のシーンでは戸田さんの肌が荒れているように写っていました。

林:そういうスタッフの細かい職人芸も、たとえば助演陣の心もとない芝居が目立ったりすると打ち消されちゃうんだけれど、「ハコヅメ」の場合、キャスティングも相当的確だし、演技が不自由げな共演者の言動はちゃんと目立たないように使ってあるのよ。

アナ:捜査モノであるにもかかわらず「ハコヅメ」を見続けられるのは、戸田さん独りの力というわけではなく、スタッフや共演者の力も大きい、と。

林:そう、脚本や演出まで含めて、見ている間のツッコミどころがこれほど少ないドラマというは一体いつ以来だろうと思わされるレベルです。もちろん「ハコヅメ」は、たとえばTBSの日曜劇場の「半沢直樹」シリーズみたいに大作風を吹かせてるわけではなく、あそこまでの予算がかかっているわけでもないはずで、つまるところ、役者とスタッフがプロとしての仕事をきっちりやっているドラマ“でしかない”ということになるんだけれど、周りを見回してみると、それができている作品が今、本当に少ない。ツンツン尖ったところはない「ハコヅメ」が突出して見える背景には、そういう寂しい状況があるわけです。

アナ:となると、永野芽郁さんのコロナ感染の影響で第5話以降の放送が当面先送りとなったのは残念ですね。

林:いや、本当にものすごく残念。オリンピック中継なんか見る気も起きないもの、これでますます見られる番組が減っちゃう。暇で仕方ないから呑み屋にでも行くよ。

アナ:今の発言はカットになります。林さん、ありがとうございました。

林:お疲れさま。よ~し、打ち上げ、どこにする?

【了】

林操(はやし・みさお)
コラムニスト。1999~2009年に「新潮45」で、2000年から「週刊新潮」で、テレビ評「見ずにすませるワイドショー」を連載。テレビの凋落や芸能界の実態についての認知度上昇により使命は果たしたとしてセミリタイア中。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月9日掲載

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