侍ジャパンに立ちふさがる「メキシコ代表」 注目は茨城アストロプラネッツのバルガス投手

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 野球日本代表「侍ジャパン」が悲願の金メダル獲得を目指す東京五輪で、“ダークホース”と見られるのがメキシコ代表だ。2019年に開催されたプレミア12で3位に入り、アメリカ大陸1位となって早々に出場権を獲得した。

日本人が苦手な“動くボール”

「メジャーリーグでの経験豊かな選手や、日本やアジアの野球を知っている選手が多いという印象です。能力の高い選手が集まっているので、安定した力を出せるのではと思っています」

 そう話したのは、独立リーグ・茨城アストロプラネッツの色川冬馬ゼネラルマネージャー(GM)だ。イラン代表やパキスタン代表の監督を歴任した同氏は世界に独自のネットワークを持ち、メキシコ代表のクンディ・グティエレス前GMと親交があることから東京五輪で来日した同チームをサポートしている。

 メキシコはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に第1回から連続出場し、ロサンゼルス・ドジャースの主力投手フリオ・ウリアスやビクトル・ゴンザレスらを生み出すなど北中米で名を馳せる野球強国だ。

 同国のプロ野球はアメリカ、日本、韓国に次いで世界で4番目の規模を誇り、ボールが飛びやすい高地に球場が多くあることなどから、伝統的に“打高投低”という特徴がある。例えば東京五輪のメンバーに選出されている右打者のアイザック・ロドリゲスは、今季47試合でリーグ4位の打率.387。2018年途中から翌年まで阪神でプレーしたエフレン・ナバーロは同13位の打率.345を記録している(今季の成績は7月24日時点、以下同)。

 こうした打者優位の環境は、投手陣にある特徴をもたらした。色川GMが説明する。

「メキシコの野球は投打ともにアグレッシブです。打者は初球から積極的に振ってきて、投手もどんどん攻めていくことを求められる。今回のチームにも手強い投手がそろっていますね」

 メキシコ人投手の特徴を説明する上で、わかりやすいのが2014年から2017年まで日本ハム、阪神でプレーした右腕ルイス・メンドーサだ。日本人が苦手とする“動くボール”を巧みに操り、2015年には10勝を記録した。今回、東京五輪で来日する12人の投手も、そうしたタイプが多くを占めるという。

「日本人投手のようにコースを細かく狙ってくるのではなく、150キロ前後のボールを動かしながらストライクゾーンの中でアバウトに勝負していきます。右も左もそうしたピッチャーがそろっていますね。メキシコではインコースで相手をのけぞらせたり、動くボールを投げて詰まらせるようなピッチングを求められたりします。今回のメンバーを見ると、特にいいリリーバーがそろっていますね」(色川GM)

 先発陣で注目されるのは、今季茨城に加入したセサル・バルガスだ。色川氏が昨年オフに同球団のGM就任が決まった際、メキシコ代表のグティエレス前GMに好選手を紹介してほしいと頼み、推薦されて入団に至った。

 今季の独立リーグでは最速155キロを計測、色川GMによるとシンカーは147~150キロ、カットボールは146~148キロ、135キロ前後のスライダーと130キロ前後のカーブを操り、力強さと打者に狙いを絞らせない狡猾さを兼ね備えている。NPBのスカウトからも熱視線を注がれている右腕だ。

 ブルペンには第1回WBCの代表でメジャー通算691試合登板の左腕オリバー・ペレスを筆頭に、同496試合でチェンジアップを決め球とするフェルナンド・サラスら経験豊かな投手をそろえた。メキシコ代表は2019年のプレミア12でも細かい継投を見せており、今回も同じ戦い方をしてくるだろう。

飛行機はエコノミー、コロナ感染も

 打線の中心は、メジャー通算2050安打、317本塁打のエイドリアン・ゴンザレス。オールスターに計5度選出されている、正真正銘のスーパースターだ。2018年限りで現役引退したものの、39歳になった今季、東京五輪に出場するためにメキシコリーグで復帰した。ブランクを感じさせず、リーグ16位の打率.340、同11位の41打点と勝負強さを見せている。ベテランが打つとチーム全体が勢いづくので、侍ジャパンにとっては抑えなければいけないポイントだ。

 他にメキシコリーグでプレーする選手では、前述したセカンドのロドリゲスが鍵を握る。高打率に加えてリーグトップの17盗塁をマークし、塁に出すと厄介な存在になりそうだ。捕手のアリ・ソリスは2019年のプレミア12でも来日し、投手陣の信頼が厚いだけでなく、同年のメキシコリーグで18本塁打を放つなど一発も秘めている。

 日本に馴染み深い面々では、元広島の内野手ラミロ・ペーニャと元オリックスの外野手ジョーイ・メネセスが代表入りを果たした。台湾でプレー経験がある長身右腕投手セオドア・スタンキビッチと左腕投手のマヌエル・バニュエロスも控え、アジアの野球を知る彼らが日本のトッププレイヤーにどれだけ通用するかも見どころになる。

 気がかりなのは、大会直前にグティエレス前GMとガブリエル・カストロ前監督が突如解任され、ベンジー・ギル新監督の下で臨むことだ。そうした影響もあったのか、色川GMによると、東京までの飛行機はエコノミークラスで来日したという。

 また、来日直前に2選手が新型コロナウイルスに感染し、広島県で予定されていた事前合宿と広島カープとの練習試合が中止に。直前のメンバー変更、そして準備不足で本番に臨むことになる。

「準備という意味では、圧倒的に日本のほうが有利です。来日後のスケジュールも、毎日わからないという状況です」(色川GM)

 初めてのオリンピック出場を決めて、ここまで高いモチベーションで準備してきたメキシコ代表。直前にアクシデントがあったなか、持ち前のアグレッシブさで跳ね返すことはできるか。選手たちには日本で活躍し、NPBのスカウトにアピールしたいという思いもあるだろう。

 底力はあるチームだけに、侍ジャパンにとって決して油断できない相手であることは間違いない。

中島大輔
1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年からセルティックの中村俊輔を4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月30日掲載

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