熱海土石流、土地所有者が直撃に「話すことはない!」と激昂 遺族が語る無念と怒り

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 異常気象による豪雨が引き金とはいえ、熱海の大規模な土石流災害は「事件」といっても差し支えない様相を呈している。人災も同然ならば“犯人”であるワルはいったい誰なのか。責任の所在が明らかにならなければ、大勢の被害者が浮かばれないのは明白である。

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 愛知県名古屋市の高級住宅街に鳴り響く蝉時雨(せみしぐれ)。梅雨が明け夏本番の到来を告げる風物詩は、時に耳障りなほどの大合唱となるが、それを遮る勢いで声を荒らげた男は、こう言い放つ。

「なんだ君は。話すことはない!」

 とても齢80を超えているとは思えないほど激しい口調で憤るが、人目につくことを極端に恐れているのか。丸々禿げ上がった頭を隠すように深めに帽子をかぶり、車から降りようとしない。

 自宅へ逃げようとする彼に本誌(「週刊新潮」)記者が、土石流で多くの方が亡くなり、未だ行方不明者がいることへの責任について質(ただ)したところ、

「そんなのは(弁護士に)言っとるよ。警察を呼ぶぞ、警察を!」

 と眼光鋭く威嚇してみせるが、警察に訴えたいのは肉親を失った遺族の方ではないだろうか。

 7月3日に静岡県熱海市を襲った土石流災害が起きてから3週間以上が経つ。131棟の家屋が被害に遭い、犠牲者は27日現在で死者22名、行方不明者6名を数える。未だ500名近くの住民が避難を余儀なくされているが、多大な被害を生んだ原因は、逢初(あいぞめ)川上流の「殺人盛り土」であることが明らかになりつつある。急な斜面に産廃を含む土砂が遺棄され、この度の大雨で一気に崩壊したのだ。

 つまりは天災ではなく「人災」の疑いが濃厚なのだが、盛り土に関与する人物らは逃げの一手で、責任の所在は定まっていない。

 結論から先にいえば、目下の“犯人”とされるのは、2人のワル。1人目が冒頭で悪態をついた老人で、盛り土の現所有者である麦島善光氏(85)だ。崩落現場の伊豆山一帯の山林を所有する「ZENホールディングス」(本社・東京)の実質的なオーナーで、寺院やリゾート施設を手当たり次第に買い漁(あさ)る一方で、過去には脱税で逮捕され懲役2年の実刑判決を受けるなど、“生臭坊主”と指摘する声もある。事実、遺族をはじめ地元住民への謝罪はおろか、会見も開かずマスコミからも逃げ回り、これまで雲隠れを決め込んでいたのだ。

「どうせもみ消される」

 同じく行方をくらませたもう一人が、この盛り土を「作った男」である天野二三男(ふみお)氏(71)。盛り土崩壊で自ら退会届を出すまでは、保守系同和団体「自由同和会」の神奈川県本部会長という肩書を持っていた彼は、同県小田原市の不動産管理会社「新幹線ビルディング」など幾つかの法人の役員に就く実業家でもある。2006年に宅地造成を名目に今回の現場周辺の土地造成を始めたが、結局は産廃を含む残土置き場にして、11年には麦島氏側に売却してしまうのだった。

 ここに疑惑の渦中にいる2人の実名をあえて示したのには理由がある。家族をある日突然奪われた被災者遺族の声を集めると、ワルたちの非道に怒り震える言葉が次々に聞こえてくるのだ。

 土石流によって帰らぬ人となり、17日に身元が判明した草柳笑子さん(82)の息子・孝幸さん(49)は、

「母は名前のとおりよく笑う明るい人で、ずっと熱海のホテルなど観光業のパートをしていました。目の前でバーッと家が流されてしまったので、盛り土の業者には怒りしかないし、責任を追及できるものならしたい。お金とかじゃなくて、せめて謝罪してほしいけど、きっと自分たちが頑張ったところで、裁いてもらうことはできないだろう。どうせもみ消されるのが関の山という気持ちです」

 なぜなのかといえば、

「行政から注意されても無視して盛り土を続けたとんでもない奴らでしょう? 周囲の人々も彼らがやっていることは分かっていても止められなかったらしいので、こんなことになっても下手にかかわりたくないのか、みんな彼らの名前を口にしたがりません」(同)

 たとえ遺族であっても、2人のワルの名前を口にするのが憚(はばか)られるというのである。同じく土砂の直撃を受けて亡くなった田中路子さん(70)の兄である出野与四男さん(82)に尋ねても、

「こんなに悲しいことはありませんが、相手が相手だから個人ではとても太刀打ちできません。遺族間でも、一緒になって彼らの罪を問う動きにはなっていない。もちろん心ではなんとか追及したいと思っていても、それを口にする人はいない。言っても仕方がない、どうにもならないと、皆さんやり場のない憤りを感じている。だからこそ、マスコミにはどんどん彼らの所業を報道してほしいのです」

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