金が至上命令の「侍ジャパン」 アマ球界も五輪“野球復活”に熱心だった日本の特殊事情

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「世界最高峰の技術を競う大会」に

 ただし、これはあくまで現場の感情論だ。球界を運営する者たちには異なる事情がある。

「『オリンピックをアマに返せ』というのは、すごく近視眼的な考え方ですね。IOC(国際オリンピック委員会)にはそんな“日本の論理”なんて通じません。そもそもなぜ野球が正式種目から外れたか。MLBが出ないからです。1974年、オリンピック憲章から『アマチュア』という言葉が抜けて、世界最高峰の技術を競う大会と定義されました。『そこにプロが出ないとは何事よ』ということで、『野球はオリンピックにいらない』と外されたんです」(球界関係者)

 1896年にアテネで近代オリンピックが始まって以来、「参加する栄誉が一番の報酬」とされてきた。スポーツでカネを稼ぐ者は排除され、アマチュアのみが参加できる大会だった。

 しかし、プロとして生計を立てるアスリートが世界中で増えていくと、1974年、IOCは方針を変える。プロ選手にも門戸を開き、オリンピックを「世界最高峰の技術を競う大会」としたのだ。

 IOCがプロ選手たちに参加を呼びかけ、初めて参加したのが1988年ソウル五輪の女子テニスで金メダルを獲得したシュテフィ・グラフ(西ドイツ)。続く1992年バルセロナ大会では男子バスケットボールでマイケル・ジョーダン、マジック・ジョンソンらがアメリカ代表の“ドリームチーム”を結成した。

 一方、MLBは頑なに選手派遣を拒んできた。年間162試合と1ヵ月に及ぶポストシーズンを行うなか、オリンピック期間中に公式戦を中断すると運営に大きな支障が出るからだ。

 野球は決してグローバルなスポーツではなく、しかも女性の競技者数は極端に限られる。いくつもの点でオリンピックで実施する基準を満たさず、2008年北京大会を最後に除外されたのである。

「プロ」と「アマ」の分断

 それが今回、なぜ復活することになったのか。東京が招致に成功し、空手やスポーツクライミングらとともに開催地提案の追加種目として採用されたからだ。

 その裏では侍ジャパンの熱心な働きかけがあったとされるなか、とりわけアマチュア球界にとって五輪復活は悲願だった。前述の球界関係者が説明する。

「野球は高度経済成長期から企業に支えられ、お金がジャブジャブありました。しかしバブルが弾け、時代は変わった。ジャブジャブだったお金がなくなり、社会人チームはどんどんなくなりました。だから、彼らはオリンピック復活に必死だったんです。正式種目に採用されれば、オリンピックマネーが入ってきますから」

 オリンピック競技に採用されれば、IF(国際競技団体、FIFA=国際サッカー連盟など)やNOC(国内オリンピック委員会、日本ならJOC)はIOCから分配金を得られる。そこから各競技団体(NF)に助成金が渡る、というのがオリンピックの“エコシステム”だ。マイナーとされる競技には、活動資金の半分以上をオリンピックマネーに頼るところもあるという。

 さらに言えば、日本球界には独特の事情がある。「プロ」と「アマ」の分断だ。

 プロ野球は2010年代から人気を高めて大半の球団が黒字化したのに対し、アマチュアの状況は決して芳しくない。高校野球は熱心なファンに支えられる一方、衰退の一途を辿るのが社会人野球だ。企業を母体とするチームは1963年に237あったものの、2021年4月時点で97まで減らしている。

 社会人野球の各チームの運営費は年間数億円とされるなか、バブル崩壊以降、活動休止する企業が増えた。統括団体のJABA(日本野球連盟)にはプロ野球のようにお金を作り出すノウハウはない。そこで頼ったのがオリンピックマネーだった。野球が正式種目に復活すれば、IOCから得られる分配金はアマチュア球界の各団体まで降りてくるからだ。

「アマチュア球界を運営する人は、『プロが出てください』と口をそろえています。『いつかアマチュアで出たい』なんて言う人は誰もいませんよ。すべて事情をわかっているからです」(前述の球界関係者)

 以上のようにプロとアマの総意として、オリンピックはNPBの最強メンバーで編成されることになった。アマチュアも含め、侍ジャパンは日本球界を「代表」して戦うわけである。良し悪しは別として、MLBが“我関せず”を決め込む一方、NPBは公式戦を中断してまでオリンピックに協力しているのだ。

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