“医師が選んだ市販薬”はいい薬?――薬剤師が教える情報活用術

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 雑誌の特集などで時々目にする、「医師が選ぶ市販薬」という企画。「医師が選ぶ病院」ランキングなどと同様、医者が選ぶなら間違いないだろう、そう考える人は多いはずだ。

 確かに、成分や用量など客観情報にせよ、副作用など企業が公表したがらない情報にせよ、これまで大多数が頼りにしてきたのは、マスメディアを介した製品評価だった。しかし、こうした類いの記事に対して、医療関係者の評判は決してよいものではないという。

 自身、市販薬に関する情報発信に携わる薬剤師の久里建人氏はこう語る。

「読者の関心を集めようと、副作用を強調して恐怖を煽るような記事はとくに評判がよくないですね。市販薬の場合、『飲むのをやめてはいけない薬』はまずないので、処方薬ほど悪い影響はありませんが、薬を飲むのをやめてはいけない患者さんまで、不安になって薬を中断しようとすることがあるんです」

 ならば、「医師が選ぶ市販薬」といった企画なら問題ないかというと、そうではないらしい。(以下の引用はすべて、久里著『その病気、市販薬で治せます』(新潮新書)の本文から抜粋・編集したものです)

「医師から見た市販薬の評価は、もちろん貴重な意見であることは間違いありません。とはいえ、そこに登場する医師は、自分が市販薬を普段から売ったり、頻繁に使ったりしているわけではなく、最新事情に詳しいわけでもありません。そのため、市販薬への評価がとても一面的だったり、そもそも情報が古くて事実と異なることさえあります。ですから、『医師が選ぶ市販薬』というのは『和菓子職人が選ぶ洋菓子』のような、ちょっとトリッキーな企画なのです。

 記事を書いた記者自身がその業界に精通していない場合は、『嘘ではないけれど、本当とも言えず、実態を反映していない』記事が出来上がります。そうした不自然な記事の積み重ねも、読者の信頼を損ねる一因なのかもしれません。取材を受けた医療従事者から『取材に協力したのに、掲載された記事はこちらが意図したこととまるで違う内容だった』という残念な声も未だに耳にします」

 いい洋菓子を知りたければ、同じプロの洋菓子職人から評価を聞くのが一番だろう。それなのに、現状は「実態を反映していない記事」が多いというのだ。

 久里氏は続ける。

市販薬の最新事情を知っているのは「店頭薬剤師」

「では、市販薬について最新の情報を得るためにはどうしたらいいのでしょうか。

 私がお勧めしたいのは、近所のドラッグストアで市販薬を購入する際、店頭の薬剤師に聞いてみるということです。要は、自分で判断できなければ、専門家に意見を仰ぐのが大切ということなのです」

 市販薬は、医療用医薬品では使われていない成分があったり、ひとつの薬に多くの成分が配合されていたりと、病院の薬とは異なる点が多い。それに、商品のリニューアルによって、成分の種類や量が変わることもままある。そうした市販薬独自の情報や、最新の事情は、医師や他の医療従事者より、店頭の薬剤師のほうがよく知っているというわけだ。

「『専門家に聞く』作戦はどんな方にも有効だと思われます。なにも親戚・兄弟の中に薬剤師を探せ、という訳ではありません。いつもお世話になっている薬剤師でいいのです。一度も行ったことのないドラッグストアや薬局の見知らぬ薬剤師より、普段から関係性を築けている薬剤師がいいでしょう。なにせ、政府も薬局を『生活者が身近な健康相談を気軽にできる場所』にする政策に舵を切っています。

 2016年からは『かかりつけ薬剤師制度』といって、自分の健康状態を把握してもらうために、患者さんが一人の薬剤師を指定する制度ができました。今まで“かかりつけ”といえば、医師や病院のことを指すことが多かったのですが、今や薬剤師・薬局もかかりつけを持つ時代になったのです。

 日頃から、分からないことは薬剤師へ気軽に聞ける関係性を築いておけば、いざ市販薬選びに迷った時にも安心して購入できるでしょう」

デイリー新潮編集部

2021年7月27日掲載

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