リアップ一強を崩したスカルプD 「発毛剤の戦国時代」を制すのは誰か

国内 社会 2021年7月26日掲載

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「コッソリ治したい“薄毛”」 本当に役立つ市販薬はどれ?

 急な発熱、痛みやかゆみを抑えたい時、風邪や腹痛などへの常備薬を揃えておきたい時、ドラッグストアは今や欠かせない存在だ。

 もちろん、「人には聞きづらい(言いにくい)薬」を買う時にも、市販薬局は大いに役に立つはずだ。その筆頭格が、薄毛ケアである。

 発毛・育毛剤は、もともとドラッグストアで効果の高い対処ができるジャンルの一つとされている。店舗責任者を務めながら、市販薬に特化した情報を発信している薬剤師の久里建人氏によると、発毛剤の市場は長年「リアップ」一強だったが、現在は戦国時代とも言える活況を呈しているというのだ。

(以下の引用はすべて、久里建人著『その病気、市販薬で治せます』(新潮新書)の本文から抜粋・編集したものです)

注目の成分は「ミノキシジル」

 薄毛対策の薬の相談を薬剤師にする人は、決して多くありません。ほとんどのお客さんは、最初から買う商品を決めて購入します。薄毛の悩みはデリケートですから、相談する心理的なハードルが高いのでしょう。販売側としては正直ラクな話ではありますが、心の中では「最近はいろいろな商品が出ているから、質問していただければ別の提案ができるんだけどな……」と、もどかしく感じる時もあります。

 なぜなら、最近の男性用薄毛対策薬は、まるで“戦国時代”と言えるほど多くの商品が登場し、商品選びが難しくなっているからです。そこで、ここでは薄毛薬戦国時代の絵巻物語について語りたいと思いますが、その前に発毛薬の基本的な選び方について簡単に紹介しておきます。

 もし男性用の薄毛薬を“成分”だけで選ぼうとするならば、それは簡単です。発毛効果の高さで選ぶべき成分は、ほぼ一択。【ミノキシジル】です。

「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」(日本皮膚科学会)では、男性の脱毛症で推奨度が最も高いのは【ミノキシジル】と【デュタステリド】と【フィナステリド】であり、それ以外の成分はやや推奨度が低くなると記されています(効かないという意味ではありません)。

【ミノキシジル】は、ドラッグストアや薬局で購入できる市販の塗り薬です。一方、【デュタステリド】と【フィナステリド】は病院で処方される飲み薬。薄毛の悩みが深刻であれば病院を受診するのがいいですが、「いきなり病院へ行くのは気が引ける」という方は、まずは市販のミノキシジル薬から始めるのがいいでしょう。実際、効果に満足して長年使用している方はたくさんいます。

ライバル第1弾はまさかのアンファー社

 さて、このように書くと薄毛対策の市販薬選びは簡単なように聞こえますが、決してそうではありません。

 現在、厚労省所管の独立行政法人PMDA(医薬品医療機器総合機構)のデータベースに掲載されている日本国内のミノキシジル商品は、30種類以上。ほんの数年前までは、状況は全く違いました。長年にわたり、ミノキシジル製品は「リアップ」ブランドのみで、薄毛対策薬といえば「リアップ」の一強だったのです。

 ミノキシジルはもともと海外で使われていた発毛成分で、日本に上陸する前はわざわざ個人輸入する人もいました。それほど前評判の高いミノキシジルが日本で販売されたのは、1999年のこと。大正製薬が国の製造承認許可を取得し、「リアップ」というブランド名で発売を開始しました。「リアップ」は“日本で唯一の発毛剤”をキャッチコピーに、敵無しの存在となったのです。

 ところが、2018年に状況が一変します。19年間ライバル不在だった「リアップ」が特許切れを迎え、他のメーカーがミノキシジル商品を売り出しました。

 さあ、薄毛薬戦国時代の幕開けです。この時、市販薬関係者を最初に驚かせたのは、ライバルの第1弾が大手製薬メーカーではなく、シャンプーなどの日用品を扱うアンファー社だったことです。高齢層をターゲットにしてきた「リアップ」に対して、アンファーが発売したミノキシジル製剤「スカルプD メディカルミノキ5」は元SMAPのメンバーを起用した若者向けの広告を大々的に展開し、市場の食い合いにならないマーケティングを行いました。これ以降、アートネイチャーなどのそれまで市販薬とは縁のなかった企業までも、美容という位置付けで独自開発したミノキシジル製品を発売するようになりました。

市販薬のポイントは「容器の使いやすさ」

 もちろん、他の大手製薬メーカーも黙ってはいません。2018年を境に、ロート製薬や興和、佐藤製薬なども自社の製品を販売し始めました。かくしてミノキシジル製品は乱立を極め、その結果、大きく2つのグループに分かれることになりました。一つ目は、「リアップX5プラスネオ」を筆頭とした高価格帯グループで、価格が1本(1カ月分)7千~8千円。もう一つは、1本5千円前後の低価格帯グループです。

 高価格グループはミノキシジル以外にも頭皮環境を整えるビタミンなどが一緒に配合されていたり、容器にコストがかけられていたりする一方、低価格グループは成分がミノキシジルだけで、容器も簡便なつくりをしています。

「金に糸目はつけない。とにかく少しでも良いものを」という方もいるでしょうが、多くの人は「主成分が同じなら、安い方がいい」と思うのではないでしょうか? それなら低価格グループが圧勝するはずですが、実際はそうなりませんでした。

 理由の一つは、「容器の使いやすさ」です。低価格商品の容器には「先が尖っており、塗っていると痛い感じがする」という感想があがった他、発売当初は「容器に不具合がある」「壊れている」と返品してきたお客さんも少なくありませんでした。最近の研究でも、「リアップX5プラスネオ」は他の製品と比較して、「計量の正確性」「頭皮への到達度」「液ダレのしにくさ」などの点で優れているという報告があります。一度は低価格商品を試してみても「やっぱりリアップの方が使いやすい」と、元サヤにおさまるお客さんもいるのです。

 ミノキシジルは1日2回の塗布を続ける薬なので、使いやすさはとても大切で、価格だけでは商品の価値を測れないのです。

高価格商品の「ビタミン」に効果はあるか

 2020年にはさらに衝撃的な事態が起きています。それまで5千円で売られていた低価格商品の一部が、ネット通販で3500円ほどの超低価格で販売されるようになったのです。その結果、7千円の高価格商品と2倍もの価格差が生じています。

 大手メーカーも戦略の立て直しを図っています。ロート製薬は2018年に発売した「リグロEX5」を、2020年にリニューアルしました。そのリニューアル品「リグロEX5エナジー」は、ビタミン成分を追加配合し、価格を税抜き7千円から5400円まで落としています。

 さて、戦いは今後どうなるのでしょうか。製薬メーカー各社は知恵を絞っているところだと思いますが、薬剤師の立場から申せば、やはり効果の違いで差別化を図ってほしい気持ちがあります。

 しかし、今の日本の発毛医薬品に添加されているビタミン類が具体的にどの程度の効果をもたらすのかは、実はよくわかっていません。ひょっとすると、ビタミン類が入っていても効果に差はないのかもしれないのです。そのため、薬剤師は発毛薬の中で「どれが一番効きますか?」とお客さんから聞かれても、薬学的には「どれも大差ない」という回答をせざるを得ません。

 いずれにしろ、「発毛医薬品ならリアップを買っておけばいい」という時代は完全に終わりました。今のところミノキシジル商品は、値段や使用感を薬剤師に聞きながら自分に適した商品を見つけるのがポイントです。やがては、科学的データに基づく発毛強化薬が開発され、この戦乱の世を制する覇者が現れるかもしれません。

デイリー新潮編集部