小山田圭吾、結局辞任へ 組織委員会に「身体検査」の意識はあったのか

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 少年時代のいじめと、それを雑誌インタビューで反省なく語ったことが問題となり、ミュージシャンの小山田圭吾が東京五輪の仕事から身を引くことになった。

 単純にミュージシャンとしての評価を見れば、彼を起用した側の狙いは理解できないものではないだろう。

 小山田ことコーネリアスのライブでは、映像と演奏が見事にシンクロする演出が売りの一つだった。あの持ち味は映像、ダンス、音楽の融合が定番の開会式で活かされるはず、海外でも結構知名度あるみたいだし…演出側の計算はそんなところだったのだろう。

騒動勃発後、対応が後手後手に

 しかしながら、どういうわけか国内での評判についてはリサーチしていなかったようだ。そもそも問題のインタビュー記事を掲載した「クイック・ジャパン」「ロッキングオン・ジャパン」は二誌ともそれなりに有名な雑誌。

 掲載当時はまだネットが今ほど定着していなかったが、これら記事については、かなり前からネット上でも「発掘」されていたため、ある程度広まっていた。たとえば個人が運営していると思われる「孤立無援のブログ」というブログでは10年以上前に、小山田のいじめ問題を詳しく伝えている。

 悪行は少年時代の話であるし、インタビューも20年以上前のものだから「時効」と考える人も一部にはいるのかもしれない。しかし問題は、組織委員会がそうした調査をしないまま無邪気に仕事を依頼したフシがある点だ。騒動勃発後の後手後手の対応を見ていると、「そんな反発は想定内」と捉えていたようには到底見えない。

 要するに、「身体検査」が出来ていなかった。

 そのツケが土壇場になって回ってきたと言えるだろう。

組織は「身体検査」にどう臨めばいいのか

 五輪の場合、多額の税金が費やされるため、国民全員がステークホルダー(利害関係者)となる。それゆえに関与する人の「身体検査」は必要だ。女性関連の「失言」で森喜朗氏が辞職した後に、橋本聖子氏が組織委員会会長に就任した際にも「パワハラ・セクハラ」の前科が取りざたされたのは記憶に新しいところである。

 また、最近の話題としては少し名前が似ているが、小室圭さんについても宮内庁の「身体検査」が不十分だったのではないか、という批判はいまだに根強い。

 あらゆる過去の言動が検索可能になり、それが瞬時に広まる時代、組織は「身体検査」にどう臨めばいいのか。

 危機管理コンサルタント会社・リスクヘッジの代表取締役社長、田中優介氏の著書『地雷を踏むな』には、「根回し」の大切さを説いている一節がある。地雷を回避するには「根回し」を忘れてはならない、というのだ。

「『根回し』なんて言葉は、私の世代では、もう死語になってしまっている気もします。あまり口にしません。しかし、一部の優秀な年配の方々は見事な『根回し』をすることで、他人の力を借りてあらかじめ危機を回避しているのです。それを私は、この仕事に携わるようになって痛感しました。弊社を訪れる一流企業の広報や総務などの、経営トップに近い幹部の方々の振る舞いは特に参考になります」(同書より)

 ここで語られている「根回し」は単に関係者の不満をあらかじめ抑え込む、了解を得ておく、というようなものではない。利害関係者や監督官庁などに日頃から情報網を持ち、情報を共有する良好な関係を維持する、といったことも含まれている。それによってリスクを回避できる可能性を高くできるというのだ。

 組織委員会で言えば、延々とスキャンダルめいた話が続いている以上、マスコミに通じるようなアドバイザーと情報を常に共有すれば、そもそも小山田に依頼するといった選択はしなかったかもしれない。

 改めて、田中氏に「根回し」と「身体検査」についての要点を聞いてみた。

「まず根回しが持つ利点と機能からご説明します。

 (1)事前に情報を提供しておいて賛同を得やすくする

 (2)事前に不具合を発見して軌道修正をしていく

 この2つが利点と機能です。

 (1)については、会社でもお馴染みでしょう。これこれこういうことをやりたいので、ご了解ください、といったことを関係者に正式決定前に伝えておく。これだけで随分物事はスムーズになります。

『身体検査』に関わるのは(2)のほうですね。

 これで最重要ポイントは、関係する事案の『アキレス腱』を見極めて徹底的に調べるのです。当然ですが、オリンピック、パラリンピックならば差別的な言動についての調査は最優先事項です。特に障害者への差別はパラリンピックにとっては最悪なのは言うまでもありません。

 これが、仮に女性スキャンダルであった場合、ここまで大きな問題にはならなかったでしょう。オリンピックやパラリンピックの精神に反する、というような批判につながりにくいですから。

 こういうことを理解できていないから、武藤事務総長は当初、続投を口にしていたのでしょう。

 ちなみに小室さんの件で言えば、犯罪や金銭トラブルの他、女性スキャンダルが『アキレス腱』となりえます」

危機管理のプロならこうアドバイスする

 もしも事前に組織委員会から相談を受けていたら、どうアドバイスをしただろうか。

「有名人のあらゆる過去の言動をチェックするとなると大変でしょうが、『アキレス腱』、急所に絞って調べるのは決して難しいことではありません。

 仮に弊社が小山田氏の身体検査をするならば、(1)差別的言動、(2)反社会的勢力との交際、(3)盗作、あたりに絞ってネットなどで検索します。それで8割がたは問題が判明します。あとは出来れば本人にも、そういう問題について直接聞いてみることが望ましいでしょう。何か後ろ暗いことや、思い当たることがあれば、その反応で残りの2割もつかめます。

 (1)の差別的言動については、もともと日本よりも欧米は厳しい傾向にあります。オリンピックに巨額の資金を提供しているスポンサーが米国のテレビ局なだけに、差別的な言動は最も慎重に調べなくてはいけなかったと思います。

 (2)については言わずもがなで、あらゆる局面でアウトになります。

 (3)の盗作は、エンブレムの一件があったので批判されやすいポイントになっていると言えます。ただ、これは実際に五輪で使用した楽曲が盗作でなければ、これほど大きな問題にはならなかったでしょうね。実際に小山田さんの過去の楽曲には、何かに似ているものもあるのでしょうし。

 そう考えると(1)(2)だけでももっと真剣に調べてください、とアドバイスしたでしょう」

 果たして、さらに「関係者」の過去が問題になる事態となるのか。組織委員会は関係者たちにアンケートでも取ってみるといいかもしれない。

デイリー新潮編集部

2021年7月22日掲載

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