世界中の「成功体験」を取り込んで更に成長する――粟田貴也(トリドールHD代表取締役社長兼CEO)【佐藤優の頂上対決】

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うどんで世界へ

佐藤 海外にも積極的に進出されています。

粟田 09年に生まれて初めてハワイに行きました。外国の外食視察が目的でしたが、その時、ワイキキのカラカウア通りの一本裏にあるクヒオ通りに、道に面してガラス張りの、ちょうどいい大きさの空き物件があったんですね。ここなら製麺シーンやうどんを湯掻くところが道路から見えると、店が繁盛する光景が頭に浮かんだんです。

佐藤 そういう直感は大切です。実際、その通りになったのですね。

粟田 もう出店した日から大行列でした。売り上げもすごかった。それは日本の繁盛店を遥かに凌ぐレベルでした。

佐藤 世界から見れば、デフレの日本のものは、何でも非常にリーズナブルです。

粟田 はい。日本ではデフレが当たり前になって、価格転嫁できない状態が続き、その中で不毛な戦いを繰り広げているところがあります。でも海外は値段を高めに設定できますし、売り上げも日本以上です。海外で成功するのは、こういうことかと思いました。

佐藤 当時、丸亀製麺はどんな時期に当たっていたのですか。

粟田 国内では年に100店舗くらい出店し、そこに人も資金もありったけのリソースを使っていました。だからハワイに出す時は、海外展開を考えていたわけではありません。でもその成功によって、一つのリスクヘッジとして海外に出ることに決めました。

佐藤 どこから始めましたか。

粟田 中国や韓国、台湾などアジア一帯に準備会社を作りました。まったく海外にコネクションがありませんでしたから、銀行や商社の方々にたいへんお世話になりました。

佐藤 私はロシアや中央アジアなどもいけると思いますね。中央アジアには「ラグマン」といううどん文化があり、それがロシアにも入っている。

粟田 ロシアは、1軒目はうまくいって、チェーン展開を目指したのですが、私どもの力不足でそれは叶わなかった。いまは現地の方に任せている状態です。

佐藤 なるほど。でも一度作ったネットワークは今後生きてくると思いますよ。また、イギリスもいいですよ。かき揚げが口に合うと思います。イギリスのインドレストランの前菜には玉葱のかき揚げが出てきますから。

粟田 この7月にはロンドンでオープンしますから、そのお話も含めてしっかり対応していきたいですね。

佐藤 イスラエルはどうですか。

粟田 まだですね。

佐藤 イスラエルでコシェル(ユダヤ教で許可された食品・飲料)認証を取るんです。するとユダヤ人の多いニューヨークでも売れる。醤油のキッコーマンは、あえてイスラエルでコシェル認証を取り、世界に出ています。

粟田 そうなのですか。

佐藤 イスラムではハラル(イスラム法で許可された食材)認証が必要ですよね。食の世界ビジネスとしては、宗教にうまく対応しておくと、どんどん広がっていくと思います。

目標は世界6千店

佐藤 丸亀製麺の海外展開に加えて、海外の外食チェーンも次々傘下に納めておられますね。

粟田 日本のマーケットは限定的だと思い始めたんですね。業績を伸ばしていくのはグローバルで考えた方が早い。うどんの世界展開で難しいのは、地域によってうどんとの親和性があまりない場所があることです。そこではうどんという食べ物を啓発する時間が必要になります。すると急速な発展が望めず、グローバル化に時間がかかってしまう。

佐藤 確かに日本のうどんが合わない地域もあるでしょうね。

粟田 それを考えると、M&Aで繁盛しているチェーンを買収、あるいは資本提携しながら展開していく方が、早くグローバル企業になれると考えたんですね。

佐藤 最初はどういうお店ですか。

粟田 15年に欧州を中心に展開する「WOK TO WALK」と資本提携しました。タイのロードサイドにある屋台に感激したスペイン人が、スペインのフィルターを掛けて作ったヌードルチェーンです。だからおしゃれなんですよ。

佐藤 スペイン人も麺類は好きですからね。

粟田 バルセロナに行った時、この店の前に大行列していたんです。それで飛び込むような形でオーナーに会いに行った。買収とはいきませんでしたが、資本の大半を持たせていただきました。Wokというのは中華鍋のことで、お客さんの前でそれを振って麺を揚げるんですね。実演という点では、丸亀製麺と同じです。

佐藤 そこでつながっている。

粟田 先ほど、ハラル認証のお話がありましたが、イスラムの世界はなかなか進出しにくい。そこでマレーシアでは「Boat Noodle」というチェーンを買収しました。もともと水上マーケットで売られていた小さなスープヌードルがルーツで、そこもわんこそばのように小さなヌードルの器を積み上げていくという、ひとつの実演性があります。ここを足がかりにイスラム圏に入って行きたいですね。

佐藤 布石でもあるのですね。

粟田 また香港ではチャイニーズヌードルの「Tam Jai International. Co. Limited」を買収しました。チャイナタウンは世界中どこにでもありますし、中華商圏には欧州と米国を足した以上の人口が存在します。この店をうまく展開できれば、世界が見えてくる。

佐藤 目標は世界で6千店舗だそうですね。

粟田 コロナにより計画が一時ストップしている状況ですが、グループで国内2千店、海外4千店という目標を掲げています。

佐藤 M&Aは日本でもやられています。

粟田 海外は私がその繁盛ぶりを見て、自分からアプローチするものが多いのですが、国内はM&Aの仲介業者からのご提案が多いですね。

佐藤 どんなところがあるのですか。

粟田 「ずんどう屋」というラーメン店を展開している会社や立飲みの「晩杯屋」ですね。いま晩杯屋はほぼ休業状態ですが、ちょい呑みの原点と位置づけていまして、コロナが終息したらチェーン展開していこうと考えています。

佐藤 非常に幅が広い。

粟田 焼鳥がダメになった時にうどんで助かりましたから、いろんな可能性を常に持っておきたいんですよ。

佐藤 だから多業種展開になる。

粟田 私どもは丸亀製麺が成功しましたが、その成功体験の呪縛から逃れられないところがあります。自分たちでパスタや焼きそばなど、他の業態を作っても、どうしても似た仕組みになってしまうんですね。でもうどん以外はなかなか繁盛しない。

佐藤 同質化してしまうのですね。

粟田 他の繁盛している店には別の成功体験があります。それを取り込んでいきたい。それにはM&Aという手法が一番適切だと思います。

佐藤 うどんの後を考えておられる。

粟田 やはりうどんだけではいずれ天井に当たります。外食業界は一社一業態みたいなところがありますが、勝ち筋はどんどん変わっていく。その時に何本か選択肢を持っていないと衰退せざるを得ません。でもマルチの業態を持っていれば、その荒波も乗り越えていけるんじゃないかと思います。

佐藤 常に新しいものを取り込んでいれば、職場も活性化します。

粟田 一つの成功体験に安住してしまうと会社の進化は止まります。だからいつも何かにチャレンジしている状態を作り出していきたいと思っています。

粟田貴也(あわたたかや) トリドールHD代表取締役社長兼CEO
1961年神戸市生まれ。神戸市外国語大学中退。喫茶店のアルバイトなどで資金を貯め、85年兵庫県加古川市に「トリドール三番館」を開業。95年株式会社化。2000年「丸亀製麺」1号店開店、11年に全都道府県に出店し、18年には海外を合わせ千店舗を達成。会社は06年東証マザーズ上場、08年東証1部上場、16年持株会社化。

週刊新潮 2021年7月15日号掲載

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