オリオンビール社長がたった2年で退任 社員が驚いた“女性秘書との関係”も一因か

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期待されたのはオリオンブランド再構築

「2年間の任期が満了したことと、非常に個人的な一身上の都合、それ以上でもそれ以下でもない。スポンサーと相談して(退任を)決めた」

 6月29日、沖縄県のビールメーカー・オリオンビールの早瀬京鋳(けいじゅ)社長が突如として退任を発表、その理由についてオンライン記者会見でこう語った。

 彼が社長に就任したのは2019年7月なので、確かに任期満了であることに間違いはない。しかしわずか1期での退任に経済界からは「なぜ?」の声が上がっている。2年前に社長就任した際、「5年後をメドにIPO(新規株式上場)を目指す」と公言しており、少なくとも24年の上場までは早瀬体制が続くものと誰もが見ていた。

 オリオンビールは19年3月、野村キャピタル・パートナーズと米投資ファンドのカーライル・ジャパンに買収されて子会社化。新たなスポンサーとなった野村キャピタル・パートナーズやカーライルが新社長として招聘したのが早瀬氏だった。P&Gノースイーストアジアやコカ・コーラジャパンといった外資系企業でマーケティングの実践を積み、カナダのスポーツ用品大手のルルレモンアスレティカ日本法人の社長を経験した同氏に期待されたのは、前例にとらわれない発想でのオリオンブランド再構築だった。

 就任後は矢継ぎ早に早瀬流を見せた。沖縄県の素材を使って開発したプレミアムクラフトビール「75(ナゴ)ビール」は、同社発祥の地である名護市にちなんで名付けられた。沖縄の言葉「わったー(私たち)」と「割った」をかけた缶チューハイ「WATTA(ワッタ)」は、新ブランドとしてシリーズ化、アルコール離れが進む若者世代にも浸透した。いずれも早瀬氏が強調してきた「沖縄に寄り添う」という姿勢を体現した商品と言える。

 とりわけ「英断」と評価されたのが、2019年末、「WATTA」の商品群からアルコール度数が高いストロング系を外したことだった。ストロング系は全国的に高い人気を誇るが、アルコール中毒者をも生み出すことから「罪深い飲み物」と言われている。一定の売り上げを出す中での製造打ち切りは、売上規模より消費者の健康を優先したとしてビール業界のみならず投資家や経営者の間でも高い評価を得た。これも早瀬氏が就任して以来、何度も言及していたSDGsの追求、すなわち持続可能性、サステナビリティを重視した判断だった。

 つまり、早瀬流は一定の成功を収めていたと言えるのだ。

「非常に個人的な一身上の都合」

 では、なぜ2年での退任となったのか。一つは業績だろう。新商品の開発やマーケティングに力を注ぎながらも、業績の回復には繋がっていなかった。

 2021年3月期決算は、新型コロナによる居酒屋の休業や観光客激減が直撃した影響で、売上高は前年比24.1%減の189億円、営業利益は同89.9%減の2億300万円という苦しい着地をした。有価証券を売却することで特別利益約9億5000万円を計上し、最終利益は同37.1%減の11億1900万円と下げ幅を抑えたが、早瀬氏の社長就任以降、実に3期連続の減収減益となったのだ。

 それでも早瀬氏や他のオリオン幹部は「(退任と)業績は関係ない」と強調する。では、他に何があったというのか。

 会見で「退任を決めた時期はいつか」と記者団に問われた早瀬氏は「特定の時期は発表できないが、それほど前ではない」と思わせぶりな発言をしている。「非常に個人的な一身上の都合」という言葉も「言うに言えない深い事情があったのではないか」という憶測を招いている。ある社員は、こう吐露した。

「早瀬さんは自分に意見する人を遠ざけるような人事をしていました。従業員の声をよく聞いて社長に進言していたある幹部は、昨年夏に社を去ってしまった。『人を、場を、世界を、笑顔に。』というオリオンビールの企業理念とは裏腹に、社長の下で働く人たちから笑顔が消えてしまっていました。幹部の間では早瀬さんに対する不満がたまって、そんな幹部との軋轢が今回の社長退任に繋がったのかもしれません」

 トップが独自カラーを出そうとする時、下で働く従業員との間に軋轢が生じることは珍しくない。ファンドから会社の立て直しを任された早瀬氏が、従業員との信頼関係構築に苦労していたことは容易に想像できる。

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