巨人、前半戦のMVPは「高橋優貴」 無名のアマチュア時代はどんな選手だったのか

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 読売ジャイアンツの大卒ドラ1左腕がついに覚醒した。2018年のドラフトで八戸学院大学(青森)から入団した高橋優貴である。

 この年のドラフトでジャイアンツに入団した選手には、ドラ6位ながら先発の柱として活躍する戸郷翔征がいる。過去2シーズンで6勝10敗の高橋は、10勝6敗の戸郷に後れをとっていた感が否めなかった。ところが今年は最速152キロの直球に加え、スライダーにスクリューを効果的に使用。7月11日現在、戸郷を上回る9勝をマークしている。さらに防御率も2.51で3位につけているのだ。

 高橋は高校時代に甲子園出場経験がなく、大学も地方だったため、ドラフト候補として注目されるまでは全国的にほとんど無名の存在だった。そこで今回はアマチュア時代の高橋の実力を窺い知ることができる試合をご紹介したい。

 まずは高校時代の試合から。茨城県ひたちなか市出身の高橋は、小学3年生から野球を始め、中学時代は地元の友部リトルシニアに所属していた。高校は西東京地区の強豪・東海大菅生に進学。すると1年生のときから早くも控え投手としてベンチ入りを果たし、夏の西東京大会予選で2試合にリリーフ登板し、7回を投げた。その後も控え投手ながら主戦として活躍し、2年夏の予選ではベスト8入り、秋の都大会でも3回戦進出を果たしている。

 そんな高橋の高校時代のハイライトは、やはり高3最後の夏である。主にリリーフエースとして臨み、23回2/3を投げてわずか4失点の力投をみせた。4回戦の世田谷学園戦では被安打3の8奪三振完封をマーク、5回戦の早稲田実戦でも4回2/3を投げ、8奪三振の無失点投球を披露する。

 迎えた準決勝。相手は断然の優勝候補・日大三であった。実は日大三とは約3カ月前に行われた春の都大会4回戦でも対戦し、0-12という大敗を喫していた。1回裏に高橋ら投手陣が日大三打線に滅多打ちにされて一挙、10失点。初回に早々と試合が決まってしまったのだった。

 その難敵相手に、この時の東海大菅生は5回を終わって1-1と互角の勝負を演じていた。このまま接戦になるかと思いきや、先発投手が6回裏に日大三打線にヒット5本を浴び、一挙に4失点。1-5と突き放されてしまった。

 もはや敗北は決定的と思われたが、7回表に先頭の4番・勝俣翔貴(現・オリックス・バファローズ)が右中間スタンドに飛び込む本塁打をはなつ。これをきっかけに反撃ムードが高まり、エラーに死球、そして4安打を集中して6得点を挙げ、7-5と逆転に成功したのだ。

 このリードを、6回裏二死二塁の場面で2番手として登板した高橋が必死に守った。最速145キロの力投で強打の日大三打線を抑えていったのだ。これに味方打線も応えて、9回表に5得点し、強力に援護。高橋は9回裏に1点を返されたものの、12-6で勝利し、見事に春のリベンジを果たしたのである。チームに勝利を呼び込んだのは紛れもなく、ピンチで登板した高橋の粘りの投球であったといえよう。

 だが、続く決勝戦の日大鶴ケ丘との一戦では7回からリリーフ登板するも、1-2と痛恨のサヨナラ負け。あと一歩甲子園には及ばなかったのである。

スカウトの前で見せた成長

 高校3年間、甲子園とは無縁だった高橋が進学先に選んだ大学は、北東北大学野球連盟に所属する八戸学院大(青森)だった。ここで金足農(秋田)時代の吉田輝星(北海道日本ハムファイターズ)を指導するなど、投手育成に定評のある名将・正村公弘監督の門を叩いたのだ。この出会いによって、ヒジの使い方など、高校時代に課題となっていた部分の修正に成功した。

 すると1年春からリーグ戦に出場、先発とリリーフで6試合に登板し、31回2/3を投げて2勝1敗、防御率0.85、40奪三振といきなりの好成績をマーク。秋にはエースの座を獲得し、チームは4位に沈むなか、最多の4勝と50奪三振を記録するなど、孤軍奮闘した。さらに、2年春のノースアジア大との1回戦では最速152キロの直球を武器に、14三振を奪う力投をみせる。瞬く間に高橋は北東北大学野球リーグを代表する投手となったのである。

 こうしてドラフト候補の左腕となっていった高橋が、プロ10球団のスカウトが見守るなか好投したのが、6-3で勝利した4年春の青森中央学院大との1回戦だ。それまでは自慢の直球で押しまくる力投派だったが、この春からは制球を重視したピッチングに切り替えていた。そのため、この日の直球は144キロ止まりだったが、強気に内角をえぐる投球を披露した。最後は必殺のスライダーを投じて相手打者のバットに次々と空を切らせていった。2回と7回には無死満塁のピンチを迎えたものの、これも硬軟自在の投球で切り抜けた。結果、8回を投げ被安打9で2失点したものの、8三振を奪う粘りの投球で精神的な面での成長をのぞかせたのだ。

 結局、4年間で挙げた勝ち星は「通算20勝」、奪三振数はそれまで富士大の多和田真三郎(現・埼玉西武ライオンズ)が保持していた299三振を更新する「通算301」をマークし、リーグ新記録を樹立したのである。こうして高橋は“北東北のドクターK”としてドラフト上位候補となったのだ。

 その凄さは練習試合でも発揮された。大学4年秋のリーグ戦最終戦を終えた八戸学院大は、東日本国際大を相手に、明治神宮大会出場をかけた東北地区代表決定戦が控えていた。その調整を兼ね、ドラフト直前の18年10月19日、宮城県内で七十七銀行(宮城)と練習試合を行ったのだが、先発した高橋は3回を投げ、無安打3奪三振1四球無失点の快投を披露したのである。2日のリーグ戦最終戦以来の実戦ということもあって、最速は144キロだったものの、直球のキレと変化球の精度で、社会人野球の強豪を翻弄。特に追い込んでからの緩急をつけたスライダーや低めに集めたチェンジアップは圧巻だった。足元に飛んだピッチャーライナーを華麗に捕球するなど、フィールディングにもスキがなかった。

 このとき4球団8人のスカウトが視察に訪れていたが、ある球団のスカウトは「全国的に見ても貴重な左投投手。上位クラスは間違いない」と太鼓判を押していたのである。

 その言葉通り、ドラフトでは根尾昴(中日ドラゴンズ)、辰己涼介(東北楽天ゴールデンイーグルス)の外れ外れ1位ながら、読売から1位指名された。1軍で活躍するまで約2年の雌伏の期間があったが、今季、ついに秘めた実力を発揮し始めたのである。右の戸郷、左の高橋。同期入団の投手2人がこれからの読売ジャイアンツを引っ張っていくことだろう。

上杉純也

デイリー新潮取材班編集

2021年7月15日掲載

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