不倫相手と密会した夜、自宅に帰ると… 不惑の恋を終わらせた“マネキン人形”と妻の“居直り”

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ある晩、帰宅すると…

 しかし、1年半ほど前のこと。ある日、彼女と会って終電近くの電車で帰宅すると、家の中が真っ暗だった。そういえば息子は修学旅行に出かけていると言っていたな、ヒロコは仕事なのかな……そう思って陽一郎さんがリビングに足を踏み入れたとたん、和室との境目に何かがぶら下がっているのが薄明かりの中、目に入った。

「ぎゃ、という声が自分の喉の奥から聞こえて……。ヒロコがぶら下がっている。早く引きずり下ろさなければ。それしか考えられなかった。腰が抜けそうになりながらも、なんとか近づいて足をつかみました。必死だった。するとバチッと灯りがつきました。それでも僕は足をつかんでいた。『足をつかんだら、かえって首が絞まるじゃないの』と言われて振り向くと、ヒロコが立っていました。ぶら下がっているのはマネキンだったんです」

 それが分かったとたん、本当に腰が抜けたと陽一郎さんは言う。ぼんやり座っている彼に向かって、ヒロコさんは言った。

「あなたが浮気を続けたら、こういうことになるわよ。本気だからね」

 彼は言葉を失ったという。

「今でもあのときのことをうまく言葉にできないんです。ショックだったし、ヒロコのやり方が卑怯だとも思う。怒りがわいたのはもっと後のこと。あのときの自分の心理は言葉にならない、ただひたすらショックで何も考えられなかった」

 浮気に気づいていた妻は、慌てふためく夫を見てしてやったりという顔をしていたが、妻がどういうつもりであんな過激な方法をとったのか、陽一郎さんには今も理解できないままだ。

「人の生き死にを冗談事にしてはいけないと、僕は幼い頃から親に言われていました。だからどんなに頭に来ても冗談であっても、人に『死ね』とは絶対に言わないし、息子にもそれは厳しく言い聞かせてきた。妻も知っているはずなんです。それなのにあんなことをするとは……」

 彼は妻に対して一気に不信感を抱いた。妻は「あなたが隠れて不倫なんかしているからよ。私は悪くない」と言い放ったという。

「情けない話なんですが、僕、それ以来、心因性不能に陥ってしまいました。マキにはその話はしなかったけど、彼女の部屋で行為に及ぼうとするとマネキンが頭に浮かんでくるんです。それと同時に萎えてしまう。マキも最初は『気にしないで』と言っていたのですが、3回目には『無理しなくていい。飽きるわよね、3年も続いてるんだから』と言い始めて。そうじゃないと言いたかったけど、マキのことを考えると潮時かもしれないと思いました」

 連絡を絶ってみると、マキさんからも何も言ってこなかった。そして陽一郎さんは家庭に戻った。

「ヒロコには、彼女と別れたことがなんとなくわかったんでしょう。ある日、『いろいろな意味で、お帰りなさい』と言われました。そのあと、『私の勝ちね』って。誰に勝ったんだと聞くと、『あなたにかしら、マキさんにかしら』と。彼女の名前まで把握していた。この勝利宣言は不快でした。以前と同じように、『お父さん、今度の日曜は料理作って』なんて気軽に言ってきますが、はいよと答えることができない。息子の手前、作りますが、妻に笑顔を向けることができなくなったんです。以前は演技でもできたんですが……。妻はごく普通に振る舞っていますよ。メンタル強いんだなあと思いますね。僕も不倫したことで、妻を傷つけたんでしょうから、何も言えない立場ですけど」

 夫の不倫で傷ついたかもしれない妻、妻の報復でショックを受けた夫。どちらの傷がより深いかを争っても意味がない。この先、ふたりはどうしていこうとしているのだろう。

「ギクシャクしながら1年以上、変わらず生活しています。日常生活の惰性と習慣は、そう簡単に変わらないんですね。妻とはあまり話はしませんが、険悪な感じでもない。夫婦の真価が問われるのは、息子が独立してからかもしれません」

 夫婦ともに相手を責めてはいない。だがあの一件をお互いに気にしているのはわかっている。あえて話し合うこともせず、日常の流れに身を任せているのだ。客観的に見れば、ふたりともメンタル強いよと内心、ツッコミたくなった。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月14日掲載

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