コロナの次はニパウイルスか やはり危険な中国「武漢ウイルス研究所」の動き

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 新型コロナウイルスのパンデミックが消息していない状況下で、このようなことを書くのははなはだ気が引けるが、世界の研究者の間では「次なるパンデミックが近いうちに起きるのではないか」との警戒心が高まっている。

 5月27日、奇妙な出来事が起きた。インドのデリーを飛び立ち米国のニューアークに向かう予定だったエア・インディアのボーイング777-300ER型機のAI-105便が「機内でコウモリが見つかった」ことで出発地の空港に戻るという異例の事態となったのである。機内で発見されたコウモリ(何者かが持ち込んだ可能性大)はインド自然保護局職員に捕獲されたが、機内全体の消毒が必要とのことで乗客は他の飛行機でニューアークに向かうことを余儀なくされた。

 コウモリ1匹が見つかったぐらいでなぜこのような大げさな措置が採られたのだろうか。その背景には「コウモリは危険なウイルスの貯水池(プール)である」との認識が急速に強まっていることがある。

 新型コロナウイルスやSARS、MARSの元々の由来はコウモリであることは知られるようになったが、コウモリは狂犬病やエボラ出血熱などの他の様々なウイルスの宿主でもある。高度な免疫系と生体防御機構が発達しているコウモリは、他の動物なら死に至らしめるような猛毒ウイルスが体内に侵入しても平気であることから、多くのウイルスがコウモリの体内に寄生できるのである。さらにコウモリ同士が密集して生活しているため、コウモリはウイルスにとって最適の環境を提供してくれる存在だ。

 国連が昨年発表した報告書は「いまだ発見されていないウイルス170万種のうち54~85万種が人間に感染する可能性があり、その中で最も警戒すべきはコウモリ由来である」と指摘している。

 コウモリはかつては人間と離れた場所で生息していた。しかし人間の方が彼らの生息地域に侵入するにつれ、彼らが持つ感染症が人間の感染症になったというわけである。

 新型コロナウイルスと遺伝情報が96%以上合致したコロナウイルスを体内に宿すコウモリが中国雲南省の洞窟で発見されたように、世界で最もコウモリと人間の接触が活発な地域はアジアである。新型コロナウイルスのパンデミック以降、世界の研究者たちはアジアのコウモリの生態に関する研究を急ピッチで進めており、新型コロナウイルスと遺伝情報が近いウイルスが各地で見つかっている。宿主は共通しており、体長6~8センチメートルのキクガシラコウモリである。鼻の周りの複雑なひだ(鼻葉)が菊の花に似ていることが和名の由来である。夜行性で昼間は洞窟などで眠っている。

 このキクガシラコウモリは日本にも生息しており、「岩手県の洞窟で捕獲されたものから新型コロナウイルスに類似したコロナウイルスが検出された」とする驚くべき事実が東京大学の村上普准教授(ウイルス学が専門)によって明らかにされている。

ニパウイルス

 機内にコウモリが発見されたことで大騒ぎとなったインドでは、国立ウイルス研究所が6月下旬「最も危険とされるニパウイルスがマハーラーシュトラ州のコウモリから発見された」とする内容の査読前論文を学術誌「感染と公衆衛生ジャーナル」に発表した。

 ニパウイルスは、オオコウモリ(体長は最大2メートル)の糞尿がついた果実を人間が食べると感染すると言われている。

 ニパウイルスについては今年1月下旬、オランダを拠点とする「医薬品アクセス財団」が「次のパンデミックのリスクは、死亡率が最大で75%とされるニパウイルスの感染爆発である」との警告を発した。世界保健機関(WHO)も「世界で最も危険なウイルスの一つ」に位置づけている。

 ニパウイルスの最初の感染例は1999年、マレーシアのニパ川沿いに暮らしていた養豚業者だった。マレーシアではパーム油と木材生産のために数十年にわたり熱帯雨林の伐採が進んでいた。この森林破壊で追いやられたオオコウモリの多くが養豚場の近くで群れを作り、このあたりで育つマンゴーなどの果樹を餌にするようになった。人間への感染は、オオコウモリの尿が付着したナツメヤシの実を食べた豚と接触したことが原因だとされている。その後、アジアを中心に12カ所で集団感染が確認されているが、インドでは2001年に初めて感染例が報告され、その後、2007年、2018年、2019年にも感染が確認されている。

 ニパウイルス感染症の初期症状は風邪に似ており、発熱や頭痛、筋肉痛、嘔吐、喉の痛みなどが生じる。重症化すると急性呼吸不全を起こし、2~3日で危篤状態になると言われている。無症状者から感染が広がる可能性も指摘されている。

 インドで確認されたニパウイルスについて、ロシアのガマレヤ記念国立疫学・微生物学研究センターのアルトシュテイン氏は「現時点で流行する可能性は低い」と評価している。ニパウイルスの最も大規模な流行は1999年(約250人が感染)だが、致死率は高いものの、人から人への感染は活発ではないという。

 しかし気になるのは中国の動きである。中国ではニパウイルスの感染例は報告されていないが、「既存のコロナウイルスの感染力を高めて新型コロナウイルスを作った」との疑いが強まっている武漢ウイルス研究所が昨年12月、シンガポールで開催されたニパウイルスに関する会合に出席しているからである。今後感染力が飛躍的に高まったスーパー・ニパウイルスが出現しないことを祈るばかりである。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月12日掲載

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