山田孝之の熱量、森田望智の圧巻、満島真之介の弱さと優しさ、玉山鉄二の親近感……「全裸監督2」の魅力について

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満島真之介とタマテツ

 さて、忘れちゃいけない男がもうふたり。シーズン1で敵対するヤクザに寝返り、薬物中毒にまで堕ちたチンピラのトシ。演じたのは満島真之介。シーズン2では彼の男気と純朴、そして不遇と不運には泣かずにいられなかった。お調子者でオラオラすればするほど、弱さや優しさが漏れ出てしまう感じを、満島が体を張って魅せた。村西とおるに最も魅了されて、最も翻弄された不運な男ともいえる。

 そして、ギラギラもオラオラもしていない、唯一まっとうな親近感を醸し出していたのが、玉山鉄二が演じた川田。川田は決して天才肌ではないが、ビデオの表現にいちばんこだわりをもっている職人気質の男だ。思うに、日本の性風俗産業を支えてきたのは、破天荒で稀有な天才だけではなく、川田のような真面目なオタクなのだろう。

「ブレイキング・バッド」を彷彿

 ふたつめ。遠慮も配慮も容赦もなく、主人公をとことん追い込んでいくスタイルは、アメリカのドラマを観ているようだった。いや、アメリカのドラマがすべてそうとは限らないが、エミー賞の各部門を獲りまくった「ブレイキング・バッド」を思い出した。主人公の化学教師が病に冒されながらも際限なく悪(ドラッグ製造、そして殺人)に手を染め、歯止めが利かなくなっていく問題作だが、「全裸監督2」も同じニオイがした。

 配慮と倫理観が幅を利かせる昨今のドラマは、みんな勧善懲悪でエッジも面白さも削られている。ついでにお金もないから、映像に迫力もスリルもスピードもテンポもない。その点、全裸監督シリーズは正しく激しく潔く金を使っているから、見ごたえ十分。映像にあーだこーだとこうるさい人も満足できるはず。「宇宙かよ!」とツッコミながら。

 三つめ。映像の端々には90年代の日本を振り返るアーカイブ要素がある。社会党の土井たか子が選挙演説をしているところへ山田が乗り込んでいくシーンでは、「社会党の最盛期だったなぁ……おたかさんがいてくれたらなぁ……」としみじみ。この後、村山富市が首相になったんだよなぁ。まだ政治家に良心があった時代だったなぁ……。

 また、山田がご執心だった衛星放送事業、そのチャンネル権を持っているのが新興宗教団体、過剰な融資で弱体化していく銀行、そして暴力団対策法施行……。40歳以上の人ならば、うっすらあるいは濃厚に刻み込まれているバブル後の日本の姿。まだちょっと浮わついた感覚を残しつつ、この後、大不況による絶望と閉塞感が訪れるなんて予測もしていなかった90年代が、このドラマの中にある。4 Non Blondesの「What's Up?」が流れてきたら、そらもう脳内は90年代へタイプトリップですよって。

 ということで、そこそこ年輪を重ねた人にもいろいろな意味で楽しめる要素が満タン。Netflixの視聴方法がわからん人は、子か孫か職場の若い人に聞け。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月9日掲載

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