事件現場清掃人は見た 自殺した「28歳女性」の父親と同業者の間で起きた酷いトラブル

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浴室の鏡

「私なら、まったく臭わないようにすることができます、と父親に伝えると、仕事を任せてくれました。見積もりは70万円。私としてもギリギリの数字でした」

 通常、遺体は死後24~36時間経つと腹部から腐敗ガスがたまり体中に広がって体を膨張させる。その後、体を破ってガスが噴出し、体液があふれ出るという。

「畳や蒲団の上で亡くなった場合、体液が吸収されて汚れの広がりが最小限におさまります。ところが、フローリングの床では体液が広がってしまいます。死臭の原因物質は、腐敗によって大繁殖した細菌などの微生物。腐敗物を栄養分に増殖を繰り返すことで、臭いがより強くなることがわかってきました」

 高江洲氏は、システムキッチンを取り外して床をチェックしてみると、体液の染みが広がっているのを確認したという。

「遺体は部屋の敷居にあったので、電動ノコギリを使って床をはがして敷居を調べてみると、色の濃い染みが見つかりました。敷居の下にあった染みを全て取り除き、フローリングに広がっている染みとキッチンの染みも丁寧に点検しながらフローリングを交換していきました」

 一連の作業が終わると、なぜか浴室の鏡が気になったという。

「亡くなった女性は生前、一日に何度かこの鏡に向かっていたのでしょう。そんなことを考えると、女性の魂が鏡を通して私の仕事を見つめているような気がしてきました。『これで大丈夫です。もうすっかり臭いは消えましたから、ご安心ください』。私は鏡に向かって心の中でそう呟きました。弟さんの生活の場でもあった部屋を汚してしまったことを女性はきっと気にしていたと思いますしね」

デイリー新潮取材班

2021年7月9日掲載

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