東京五輪の感染拡大防止は「直帰率」がカギ 「直帰率8割で感染増はある程度抑えられる」

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夏を乗り越えられれば

 国際政治学者の三浦瑠麗さんが意見する。

「飲食だけが不要不急と見なされていますが、感染機会が多いからといって、事実上生きていけないような営業制限を加えられていいのでしょうか。飲食も営業する側にとっては生きていく手段で、営業の自由は職業選択の自由から導き出される経済的な権利です。表現の自由や報道の自由があれだけ重視されるのに、飲食店の営業の自由が過小評価されるのは違うのではないか、という声が法哲学者からも出ています」

 しかも、「感染機会」がさほど多くないなら、どうだろうか。大阪市立大学名誉教授で現代適塾塾長の井上正康氏(生体防御学)は、

「飲食店ばかりを狙い撃ちにする政府や分科会のこれまでのやり方は、科学的根拠に欠けます。そもそも飲食店での感染は、感染経路の5%以下にすぎず、最も多いのは家庭、次いで病院や高齢者施設。飲食店は政府および分科会が“きちんと対策しています”とアピールするためのスケープゴートです」

 そう語って、米村教授が言う「感染が起こりやすい場」に、一つの回答を示す。

「最も気をつけるべきはトイレ。コロナウイルスの受容体ACE2は小腸に多く存在するので、ウイルスが便と一緒に排出されることが多い。便座と、内側のドアノブについたウイルスは、感染力が2週間程度維持されるため、その期間に使った人が無症状で感染し、また別のトイレでウイルスが排出され、ということが繰り返される。いくら3密を避けてもだめで、トイレの消毒が非常に重要です」

 こうしてあげつらうほどに、日本の感染対策の問題が浮かび上がるが、先のシミュレーションを紹介した際、「経済活動がコロナ禍以前の水準に回復」という文言があったのを思い出してほしい。それでも出口は見えてくるのだ。東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏は、

「政府や分科会は新型コロナの流行当初から、国民の恐怖心を煽って自粛を促すことに注力してきましたが、一番重要なのは感染者数ではなく、重症者と死者の数を減らすことです」

 と言い、こう続ける。

「新型コロナは、ほぼ4カ月ごとに感染の波があるのが特徴で、おそらく第5波は五輪や対策状況にかかわらず、8月ごろにくるでしょう。デルタ株の存在を考慮すると、感染者数はある程度増えると予想されます。しかし、8月には相当数の高齢者がすでにワクチン接種を終え、第5波では重症者と死者の数は激減するでしょう。実際、イギリスではいま感染者数は増加傾向でも、重症者と死者は減り続けている。日本も6月から重症者数も死者数も減少傾向で、今後2~3週間で状況はもっと改善されると予想します。ワクチン接種が進めば明るい未来が見えてくることは、海外の事例からも明らかなのに、政府や分科会は、国民に出口を見せると危機意識がゆるむと考えているようです」

 加えて、結核やSARSと同じ扱いである指定感染症の2類相当を、季節性インフルエンザと同じ5類に改めるのも、唐木氏は、

「今後進めるべき課題」

 と語るが、「今後」である理由を、東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長の川口浩氏が説明する。

「格下げは必要ですが、厚労省は“5類に格下げして指定感染症を外せば、一般病院でも受け入れられやすくなる半面、国費負担でなくなるため受診控えが進み、感染状況が悪化する”と説明しています。厚労省はメンツが大事なようで、いまからの格下げ議論再開はなさそうです。それなら入院の途中で感染症が終わっていることを認めてほしいと、いまは考えています」

 どういうことか。

「長期入院のせいで医療逼迫が起きますが、多くの場合、合併症で入院が長引いている。それなのにコロナの病名のまま入院させておくという、理屈に合わない事態が起きています。ですからPCR検査を2回行って陰性なら公的負担を終え、合併症の病名に変え、一般病院に受け入れてもらう。そうすれば“あそこはコロナを受け入れている”という一般病院への風評被害もなくなり、ほかの患者の受診控えも防げます。このシステムは日本医師会が作るべきでしたが、まったく取り組んでいません。私の周囲にいる日医会員の先生方も、“感染力がなくなってコロナの病名が外れれば患者を受け入れる”と言っているのです」

 課題は山積でも出口は見えている。課題が解決できれば、出口はもっと近くなるだろう。最後に分科会メンバーの意見も聞こう。経済の専門家として参加している慶應義塾大学の小林慶一郎教授である。

「デルタ株の蔓延が危惧され、8~9月には主流になるとの予想もあります。そうなればワクチンによって重症者や死者を抑えられても、感染者数は増えていく可能性があります。ですから、まだ楽観視はできません。感染症の専門家はもっと悲観的で、ワクチン接種が進んでもワクチンが効かない変異ウイルスが発生し、状況が悪化するとみています。逆に、このまま大きなリバウンドが起こらず、新しい変異株が現れず、ワクチン接種が進めば、感染はある程度収まり、出口が近づくでしょう。不確実性は高いですが、夏をうまく乗り越えられれば、秋冬にはGoToキャンペーンのような消費刺激策も始められ、消費が増えて経済状況もかなり改善する可能性はあると考えています」

 われわれの意識の持ち方次第で、出口を近寄せられるところまではたどり着いた、と言えるだろう。

週刊新潮 2021年7月8日号掲載

特集「コロナの出口戦略」より

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