韓国大統領選に出馬表明 “死神”こと尹錫悦前検事総長とその妻をめぐる「Xファイル」の中身

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義母が詐欺罪などで実刑判決

 来年の韓国大統領選に出馬を表明した尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長(60)。検察官時代、彼が捜査を担当すると被疑者は逃げきれないことが多く、“死神”という別名もある。国民的人気が高く、その勢いを快く思わない勢力は早くもネガティブ・キャンペーンを仕掛けており、彼や妻などに関する疑惑が詰まった「尹錫悦Xファイル」の存在が取り沙汰されている。韓国在住のライター、羽田真代氏によるレポート。

 いまから26年前の1995年6月29日に韓国ソウル市にある三豊(サンプン)百貨店が崩壊した。死者502名・負傷者937名・行方不明者6名という大惨事となり、当時、史上最悪の建物崩落事故といわれた。

 事故後、この場所はしばらく空き地のままであったが、2004年6月には地上37階・地下6階建てで計757世帯が居住できる高級アパート(日本でいうマンション)の3棟へと生まれ変わり、来年の大統領選挙に出馬を表明した尹錫悦前検事総長も居住している。

 尹錫悦氏は偶然なのか、自身が住んでいたアパートの前身である三豊百貨店が崩壊した日と同じ6月29日に大統領選挙への出馬を表明した。そのため、一部韓国国民からは「この事故を意識しての表明なのか」などといった声が上がっていた。

 そんな中、7月2日には尹氏の義母に詐欺罪などで懲役3年の実刑判決が言い渡され、収監された。

 尹氏は、次期大統領候補をめぐる世論調査で長期間支持率トップをキープしており、野党で最も強力な次期大統領候補に挙げられてきたが、別人格であるとは言え義母への実刑判決は痛手であることは間違いない。

 さらに、尹氏にまつわる批判や疑惑はこればかりではない。6月に文在寅大統領が“検察改革”として新設した「高位公職者犯罪捜査処(公捜処)」によって職権乱用の疑いで告発されている。主な嫌疑は、捜査を積極的に行わないよう指示したというものだ。

全斗煥大統領に“死刑判決”

 ここで、尹氏の経歴をざっと振り返っておこう。

 ソウル大学時代、光州事件における弾圧の責任を問う模擬裁判に検事役として“出廷”し、当時の全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領に死刑宣告をしたことがある。たとえ模擬裁判でも大統領への死刑求刑は異例中の異例で、尹氏がその後、1991年まで9年間も司法試験に受からなかったのは、このことが原因ではないかと指摘されている。

 検察官となってからも目立った功績はなく、2013年に朴槿恵(パク・クネ)政権の不正捜査を大々的に行ったことで地方に左遷されたこともある。しかし、政権交代したあとは文大統領下でソウル中央地検長、19年には第43代検事総長と出世の階段を駆け上がった。彼が捜査を担当すると逃げきれないことが多く、“死神”という別名もある。

 彼は検事総長として、別名“たまねぎ男”と呼ばれる文大統領お気に入りの曺国(チョ・グク)元法相を起訴したことから文政権と対立するようになり、20年11月には秋美愛(チュ・ミエ)前法相が憲政史上初めて彼の職務執行停止を命令。結局、21年3月に検事総長を辞任することになった。

 辞任後は、文政権の体たらくを真っ向から正そうとしたとして尹氏を「次期大統領」に持ち上げる声が高まっていた。しかし、“尹大統領”誕生を何とかして阻止したい文政権は公捜処を使って彼を告訴し、尹氏の出馬を快く思わない野党も攻勢に出てきているわけだ。

 現在話題となっている「尹錫悦Xファイル」と呼ばれる怪文書には尹氏にまつわる20件もの疑惑が記述されているという。このXファイルの内容や作成者が誰なのかは明らかにされていないが、初めて公に言及したのは新韓国党(現・国民の力)出身で保守派の政治評論家のチャン・ソンチョル氏であった。

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