「金融危機がやって来る」と叫ぶ韓国銀行 年内利上げを予告、バブル退治も時すでに遅い?

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屈辱の通貨危機を思い出せ

――さすがにメディアは反応した……。

鈴置:FVIという一目で分かる指標のせいか、ほとんどの新聞が社説で取り上げました。中央日報の「韓国、大きくなる家計負債の警告音…韓国銀行『このままでは2.2%のマイナス成長も』」(6月23日、日本語版)はFVIを紹介したうえ、「世界同時金融危機のような衝撃が発生すれば、韓国の成長率はマイナス2・2%まで落ちると韓銀は分析した」と警告を発しました。

 韓国経済新聞は「韓銀、家計負債・資産バブルを警告…ばらまき政策は節制せよ」(6月22日、韓国語版)で「負債急増により、昨年は営業利益で利子も支払えない企業が39・7%に達した」と指摘、金融緩和措置を段階的に是正するよう求めました。

 東亜日報は「不動産・株式バブル、外貨危機直前の水準と言う韓銀の警告」(6月23日、韓国語版)と、韓国人のトラウマである1997年の通貨危機を見出しにとりました。「あの屈辱を繰り返すな」と訴えたのです。

 政府系紙のハンギョレも「金利引き上げ前に『不動産価格下落』を警告した韓国銀行」(6月23日、韓国語版)で「危機が拡大しないよう政府と韓銀が上手に管理せねばならぬが、家計も状況を冷静に見て、資産買い入れに慎重にならねばならない」と主張しました。

 もっとも、ハンギョレの論調は「上から目線の説教」と反発を呼ぶかもしれません。韓国人が投機に走るのは文在寅政権の不動産政策の大失敗により、手を拱いていれば相対的に貧しくなるからです。

 中央日報のチェ・サンヨン論説委員が書いた「【時視各革】庶民政府と誤解するところだった=韓国」(6月25日、日本語版)はそこを突きました。

 国民は政府に対する信頼を完全になくした。政府高官が「不動産価格が下がるぞ」と警告すれば、「まだ上がるな」と考えるようになった、というのです。

「油断大敵」にも馬耳東風

――韓銀の警告は効き目がありましたか?

鈴置:少なくとも株価にはありませんでした。「金融安定報告書」が発表されても上がり続け、6月25日、KOSPIは史上初めて3300の大台に乗せました。

――「通貨危機」と脅されても、株を買うのですか。

鈴置:韓国人に限らず、投資家とは「自分だけは最高値で売り抜けられる」と信じている人達なのでしょう。それに「韓国経済は1997年のように脆弱ではない」と多くの韓国人が考えています。

 当時、39億ドルにまで細った外貨準備も、今年5月末には4500億ドルを超えました。経常収支も黒字基調が定着しました。銀行も企業への異様な貸し込みはやめており、金融システムの安定性は飛躍的に増したと見られています。

 韓銀も韓国人の「油断」は分かっています。今回の「金融安定報告書」は「銀行の資産健全性と収益率は良好である」(3ページ)、「短期外債は増加傾向にあるが、外債健全性の側面ではまだ憂慮すべき状況ではない」(11ページ)としつつも「不動産価格を中心とした資産価格の急速な上昇が起きている」(3ページ)と指摘し、これが経済破たんの端緒になりうると警告しています。

「以前に沈没した際の船底の穴をふさいだ」と安心するな。別の場所に穴が開けばやはり沈没するのだ、との論理です。

 外貨準備もそうです。韓国紙は年中、「巨額の外準」を誇りますが、韓国人が自分の国への信頼を失ってウォンを売り始めたらひとたまりもない。1997年とは異なり、今は為替取引は完全に自由化されています。

 韓銀もその危うさは強く意識していて、今回の「金融安定報告書」でも外国人の対韓投資だけでなく、居住者の対外債券投資の動向にも目配りしています(10ページ)。

人口ボーナスの終わり

 実は今、1997年にはなかった「大穴」も発生しています。働き手の減少です。韓国は2016年をピークに生産年齢(15―64歳)の人口が減り始めました。

 亜細亜大学の大泉啓一郎教授が日本総研の上席主任研究員だった2016年に書いた「韓国の人口ボーナスは終わったか?」によると、生産年齢人口が全人口に占める比率がピークに達したのは2013年でした。

 生産年齢人口のピークアウトは国の生産力の低下を意味しますが、問題がもう一つあります。生産年齢人口の比率が上がる局面では貯蓄率が高まるため、バブルが発生しやすくなるのです。

 先ほど「不動産価格高騰は文在寅の失政のせい」と申し上げましたが、人口論的にもバブルが生まれやすくなっていたのです。文在寅政権は生産年齢人口が減り始めた2017年にスタートしています。

 バブルが発生すると、普通は金利を上げて対応します。ただし、生産年齢人口が減る局面で利上げすると、貯蓄率の減少と合わさって、予期した以上に大きな金融収縮が起きる。まさに、1990年代初めの日本のバブル崩壊がそれでした。

――韓国銀行も指摘しているのですか?

鈴置:今回の「金融安定報告書」では人口論には言及していません。韓国紙の東京特派員を経験した記者が「日本のバブル崩壊の轍を踏むな。安易な利上げは危険だ」と書くことはありますが。

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