「卵ひとつ」で東京五輪代表を逃した男 レスリングにおける階級変更の難しさ

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 リオデジャネイロ五輪の銀メダリストが「卵一個」に泣き、連続出場切符を逃した。

 6月12日、味の素ナショナルトレーニングセンター(東京)でレスリング男子フリースタイル57キロ級の東京オリンピックの代表を決めるプレーオフが行われた。元世界王者の高橋侑希選手(27=山梨学院大職員)がリオデジャネイロオリンピックの銀メダリスト、樋口黎(25=ミキハウス)に4-2で勝って代表に内定した。

 高橋は2016年のリオデジャネイロオリンピックでは代表の有力候補だったが、国内予選で敗れて出場を逃しており、嬉しい初の五輪代表となった。

 2017年の世界選手権で優勝するなどの実力者の高橋。しかし、3位以内なら東京五輪代表が決まるはずの2019年の世界選手権で10位と不調で、年末の天皇杯でも樋口に敗れた。東京五輪はほぼ絶望的になったが、その後、五輪が延長され、今年4月のアジア選手権に出た樋口が計量失格したため、可能性が復活した。国別の出場枠をとるために5月に世界最終予選(ブルガリア)では高橋が出場し(樋口が枠の獲得に失敗すれば高橋が出ることを協会は事前に決めていた)、日本の出場枠を取ってきた。

感じていた相手の余力

 この日は「自分が勝ち取ってきた枠を他人には渡せない」とばかり気合十分で臨んだ。試合は高橋が積極的に攻めて相手の消極姿勢を誘ってリードしたが、その後、樋口にうまくタックルに入られ2-2と追い付かれた。しかし高橋は「相手はこのくらいの余力か」と冷静だったという。残り一分、相手の再度のタックルを返してバックにつき2ポイントを上げて逃げ切った。

 初の五輪代表をつかんだ高橋はマットにうずくまったライバルを気遣ってか、マットを降りてから「よーし」と雄たけびを上げると、支えてくれた妻早耶架さんに真っ先に喜びの電話をした。早耶架さんら家族が寄せ書きしてくれ、リングコスチュームに入れて戦っていたハンカチを見せながらリモート形式の会見に登場した。

「強い相手というのはわかっていた。自分が獲得してきた代表枠を確実に僕のものにするため、樋口選手に勝っていい流れでオリンピックに行きたい」と息を弾ませた。さらに「自分で自分のことを可哀そうな選手と思うことはあったが、悲観的にならず、この一年半を二度とない貴重な時間と思って、どんなことも乗り越えられるとやってきた。諦めなければ、結果を出せるということを自分が教えている選手たちに見せたいと思っていた。諦めなくてよかった」と、今は母校での指導者でもあるベテランは喜んだ。

 実はこれより少し前の5月末に明治杯(全日本選抜選手権)があったが、録画中継していた日本テレビは、五輪代表が参加せず視聴率も悪いため、この注目のプレーオフを最終日に組み込むことを要求し、日本レスリング協会も同意していた。しかし高橋の山梨学院側が「隔離期間明けから4日目の試合になる。貴重な日本枠をとってきた本人にそんな状態で試合をさせるのは不公平だ」と反発し、この日の開催となっていた。

 箱根駅伝で有名な山梨学院大のレスリング部は現在、天才レスラー高田裕司氏(日本レスリング協会専務理事)が総監督を務めるが、男子フリースタイルの乙黒兄弟(拓斗・圭祐)も代表を決めており、OBを含め、五輪代表の男子6人中3人(フリーに限れば4人中3人)を占める快挙となった。

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