林眞須美死刑囚、長女の夫も自殺未遂していた 子ども2人は異父姉妹、虐待の実態は?

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 血縁、地縁、生育環境。人間、自身を縛る軛(くびき)から逃れようと必死に足掻(あが)く。それでもハタと気付く局面が訪れたりする。結局、自分は「逃れられない運命」という檻(おり)の中をグルグル回っているだけなのではないかと。ふと、こんな言葉が頭を過(よ)ぎる。不幸の連鎖――。

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「その男にいっぺん会って、話が聞いてみたい。警察が何も処分をせんのやったら、ホンマ、その男をボコボコにしてやる!」

 普段は車椅子で移動するその老人は、憤懣やるかたない様子でこうまくし立てた。「その男」、つまり自分の娘の夫をボコボコにしてやると。その老人自身が、極めて凄惨な事件の「関係者」なのだが……。

〈関空橋から転落? 女性と幼児が死亡 和歌山の母娘か〉(6月10日付読売新聞)

 新聞で短くこう報じられた母娘死亡事故。だが、紙面の裏には「不思議な因果」が隠されていた。

「亡くなった母娘は、和歌山カレー事件の林眞須美の長女と孫だと言われています」

 こう説明するのは、和歌山で取材する大手メディアの記者だ。

「37歳の母親と4歳の娘は、6月9日の午後4時頃、関西国際空港連絡橋(大阪府泉佐野市)から飛び降りた。自殺と見られています。その約2時間前には、母娘の自宅である和歌山市のアパートで、4歳の娘の姉にあたる16歳の長女、心桜(こころ)さんが『血を吐いて倒れている』と母親が119番通報。心桜さんは、病院搬送後に死亡が確認され、虐待死の疑いで和歌山県警が捜査をしています」

 つまり、林眞須美の娘と孫ふたり、計3人が相次いでこの世を去ったのだ。折も折、5月31日、死刑が確定している林眞須美の再審請求が和歌山地裁で受理されていた。突如、ニュースが立て続くことになった「林家」。さらには、

「同じ9日の夜遅く、37歳の母親の夫である心桜さんの“父親”が、一命を取り留めたものの和歌山市内の港近くの路上で自殺を図っています」(同)

 心桜さんを虐待していた罪の意識から、父親は自殺を試みたとも考えられるわけで、この見立てが先の老人、すなわち林眞須美の夫である林健治氏(76)の怒りにつながるのだが、事はそう単純な話ではなさそうだ。

異父姉妹

「心桜は、小学生の頃から虐待されているらしいと噂になっていた。実際、足に絆創膏が貼られている姿をよく見ました」

 と、中学時代の同級生は振り返る。

「中1の夏になったら、『義理の妹ができるから世話をしないと』と言って、心桜はソフトボール部をやめました。その後、不登校がちになり、中3の時に久しぶりに近所のスーパーで見たら、かなり痩せていて驚きました」

 以前から虐待疑惑があった心桜さん。事実、児童相談所に話が持ち込まれたこともある。問題は「誰が」虐待していたのかだ。健治氏は、自殺未遂した父親がやったと信じて疑わないが、同級生の証言にあった通り、心桜さんと4歳の女児は異父姉妹。ともに母親は今回連絡橋で亡くなった林眞須美の娘だが、父親が異なるのだ。

 別の中学時代の同級生が声を潜める。

「心桜ちゃんは中2の時に、『お母さんからいじめられた。やっぱりお父さんが違うからかな』とこぼしていました。離婚した前夫との間の子である自分を、お母さんは疎(うと)んでいるんじゃないかって……」

 自殺を図った男とは一面識もないという健治氏は、

「ワシと眞須美が逮捕されてからも、娘がきょうだいたちの面倒を見ていた。娘は私たち親に、『あなたのせいで私らの人生はめちゃくちゃになった』とは決して言わんかった。偉い子やった」

 と、できた娘であったことを強調しつつ、

「今の夫が『虐待は全部、妻(健治氏の娘)がやりました』と言って、警察が鵜呑みにするのが怖い。死人に口なしやからな」

 虐待死したとされる心桜さんは、果たして誰にやられたのか。そして、自身に覆いかぶさる運命とどう折り合いをつけようとしていたのだろうか。「林家の運命」と――。

週刊新潮 2021年6月24日号掲載

ワイド特集「郵便配達は二度ベルを鳴らす」より

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