事件現場清掃人は見た 認知症で退居した「50代男性」の部屋があまりにも汚れていたので――

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 孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。長年、この仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を上梓した高江洲(たかえす)敦氏に、認知症になった50代男性の部屋について聞いた。

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 特殊清掃の仕事は、住人が亡くなった部屋だけを対象にしているわけではない。

「関東地方のある市役所から仕事の依頼がありました」

 と語るのは、高江洲氏。

「電話してきたのは生活保護課の方でした。50代男性の認知症がひどくなり、強制的に施設に入れられてしまったそうです。部屋の汚れがひどいため、私に清掃をしてほしいという話でした」

 高江洲氏は早速、現場に向かった。

風呂場で用を足す

「古びたアパートに市の職員が来ていました。間取りは6畳と4畳半の2間にキッチン、トイレ、浴室です。職員の話によると、男性は認知症の影響でトイレに行けず、風呂場で用を足していたそうです」

 高江洲氏の嫌な予感はすぐに当った。

「玄関のドアを開けると、ゴミの山が崩れてきて、思わず声をあげてしまいました。部屋に入ると、すでに電気が止められており真っ暗でした。懐中電灯をつけると、足の踏み場もないほどゴミで埋め尽くされていました。色々なものが腐った臭いと汚物の臭いが充満していましたね」

 しかし、それだけ汚れていても、人が亡くなった部屋とは明確な違いがあるという。

「住人が亡くなった部屋は、誰かに見られているような、音もしないのに何かを語りかけられているような、息のつまるような空気が流れているのです」

 部屋では、ゴミの山が崩れてきて満足に歩けない状態だった。

「一カ所として立っていられるスペースはありません。壁に手をつかないと前へ進むこともできませんでした」

 台所には、飲みかけのコーヒー飲料や汚れた食器が放置されていた。冷蔵庫を開けると、卵や野菜もほとんど腐っていたという。

「問題の風呂場を見ると、排泄物が排水口を塞いで水の流れをせき止め、たまった水は変色して悪臭を放っていました」

 すると、いきなり女性の声がした。

「これはひでえや!」

 振り向くと、玄関口にお婆さんが顔を出していたという。

「まったく、そんなところにクソなんかしやがって!どうしようもないよ、こいつは!」

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