事件現場清掃人は見た 認知症で退居した「50代男性」の部屋があまりにも汚れていたので――

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見積もりは60万円

 彼女は隣の住人だった。高江洲氏が言う。

「あれだけ汚れていると、隣室にも臭いが漏れていたでしょうし、ゴキブリやハエなどの被害があったに違いありません。いくら認知症になっていたとはいえ、隣人からみれば迷惑以外の何ものでもありません」

 お婆さんは、

「汚ねーな、くせーな、早くなんとかしてくれよ」

 と、何度も文句を言い放った。

 高江洲氏は、市役所の職員に見積もりを出してみた。

「これだけゴミをためてしまう、清掃は容易ではありません。ゴミを片付けるにはトラック3台、作業員も3人は必要です。消毒をして消臭し、汚物で汚れた床も張り替えると、安く見積もっても60万円はかかる計算になりました」

 ところが、職員が提示したのはわずか10万円だった。

「行政の方は、特殊清掃の相場を把握していないことがほとんどです。風呂場の汚物を手でつかんで処理することが、どれほど大変なことか分からないのです」

 市の職員は、

「原状回復までは求めません。ゴミを片付けて、風呂場や台所をきれいにしてもらえれば、それでかまいません」

 と、妥協案を出した。しかし高江洲氏は、

「私は特殊清掃の仕事に誇りを持っています。報酬が安いからといっていい加減な仕事をするわけにはいきません。結局、市の職員から料金が高いと言われ、この仕事は受けませんでした。市は、10万円でやってくれる業者を見つけたかもしれません。確かに安い金額で仕事を引き受ける業者はいるのです。ただ、その場合、どこかの山の中にゴミを不法投棄してしまうこともよくあります。そういう事情がわかっているだけに、私はあの部屋がその後どうなったか気になって仕方ありません」

デイリー新潮取材班

2021年6月11日掲載

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