ワクチン接種、最大の障害は「日本医師会」 効率の悪い個別接種を推奨、歯科医を参入させない特権意識

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 予定通りにワクチン接種が進めば、この不条理な自粛生活も先は長くあるまい。ところが足を引っ張る不届きな組織がある。その代表が日本医師会。コロナ収束はもはや、我欲に忠実で身勝手な会長率いるこの組織の横暴を、どう抑えるかにかかっているようで。

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 期限を守らない人は社会で信用されない。それなのに、菅義偉総理はいったい何回、国民との約束を破り、緊急事態宣言の期限を引き延ばしたことか。しかも今回は、黄金週間の人流を抑えるために短期集中で厳しく、という話が、2回の延長を経て2カ月近く続くことになった。こうなると、もはや詐欺に近い。

 医師でもある東京大学大学院法学政治学研究科の米村滋人教授も、

「なにを根拠に延長を決めたのか、まったくわかりません。いま政府がすべきは、データをもとに感染リスクが高い場所を特定し、そこの人流を制限することなのに、ただ闇雲に緊急事態宣言を引き延ばしている」

 と批判し、こう加える。

「分科会は“感染症”の専門家集団であって、“感染症対策”の領域においては素人集団です。もちろん、政府はさまざまな意見を聞いて決定を下すべきですが、緊急事態宣言をどうするかという点でも分科会の意見ばかりを聞いている現状は、なにか不都合が起きたときに、分科会のせいにしたいだけのように見えます」

 そうだとしても、近くワクチン接種が進んで医療逼迫が改善され、ひいては集団免疫の獲得でようやくコロナが収束するなら、まだ耐えられよう。事実、分科会の尾身茂会長も、緊急事態宣言の延長が決まった5月28日夜の会見で、ワクチンの効果について、

「発症予防、重症化予防がメインという前提で話してきたが、ここにきて外国のデータを見ると、感染予防についてもかなり効果があるのではないか、という指摘がなされている」

 と語った。つまりワクチンを打てば、感染者が発症しにくくなるばかりか感染者自体が減る、という期待を示し、国民にあと少しの我慢を頼んだのだが、それにしては、いまなおワクチン接種の足を引っ張る勢力がある。厚生労働省と日本医師会である。

 厚労省の問題を明らかにしたい。5月21日、米モデルナと英アストラゼネカのワクチンが正式に承認されながら、後者は当面、接種が見送られてしまった。そこに至る経緯を厚労省医薬品審査管理課に聞いた。

「当課が対応している薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は、アストラゼネカ製ワクチンの有効性と安全性を考慮し、承認して差し支えないと判断、特例承認に至りました。このワクチンの予防効果は70%と、ファイザーやモデルナ製にくらべると低いですが、ワクチンとして公衆衛生上の目的を達成できない数字ではない。現にイギリスではアストラゼネカ製ワクチンが多く接種され、感染者数をぐっと抑えることに成功しています。血栓症のリスクが報告されていますが、ここ数カ月の欧州等での接種例から対処法もわかってきました。関連学会と連携し、対処法に関する手引きの作成も依頼しています」

 と、ここまでは順調だったのだが、

「この議論を、公衆衛生上の観点から議論する厚生科学審議会が引き継ぐと、ほかのワクチンとの比較や感染状況、情報収集やガイドライン作りの必要性等を鑑み、接種の見送りという判断に至りました」

 担当者は悔しそうだが、あらためて3社のワクチンの違いを確認したい。

アストラゼネカ製が切り札

 東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授が言う。

「ファイザー製とモデルナ製はメッセンジャーRNA、アストラゼネカ製はアデノウイルスベクターといって、タイプが違います。簡単に言うと、アストラゼネカ製は新型コロナのスパイクタンパク質(突起部分)のDNAの設計図を、チンパンジーのアデノウイルスに組み込んで人体に注射します。するとアデノウイルスはベクター(運び屋)となって細胞に入り込み、設計図を届ける。それを取り込んだ細胞は、メッセンジャーRNAという物質を経てスパイクタンパク質を作り出し、体はこれに対する免疫を作り、抗体ができます」

 一方、ファイザーとモデルナ製のワクチンは、

「DNAの設計図ではなく、一歩先の段階のメッセンジャーRNAを体内に入れる。要は、DNAよりもすぐに使える設計図を注射するのです。メッセンジャーRNAはDNAにくらべ、もろく不安定だという欠点もありますが、ファイザーとモデルナ製は、それを克服して高い予防効果を実現しました。ただ、インフルエンザのワクチンの予防効果も40~60%ですから、アストラゼネカ製の70%は、とても高い数字です」

 とはいえアストラゼネカ製は、副反応を心配する声もある。埼玉医科大学の松井政則准教授によると、

「イギリスでは100万人に9~10件程度、血栓症が報告され、死亡例も確認されています。この副反応は60歳未満の、それも女性に多く見られ、このためデンマークやノルウェーでは使用が停止され、欧州のほかの国々は、接種対象をイギリスは40歳以上、フランスは55歳以上、ドイツは60歳以上にかぎるなどしています。しかし、壊れやすいRNAよりもDNAのほうが安定しているため、アストラゼネカ製は2~8度の冷蔵庫で保管できる。ワクチンの保管用冷凍庫を自費で買う医師もいるなか、保管が簡単なのは大きなメリットです。保管用冷凍庫がない離島の診療所でも使えるし、遠くの接種会場まで行けない高齢者が近所で接種を受けられます」

 副反応について、寺嶋教授が補足する。

「血栓症を発症した女性に、経口避妊薬やエストロゲン等のホルモン剤を飲んでいる方もいました。原因はハッキリとはわかっていませんが、論文によれば、血液の凝固に関わる血小板第4因子への抗体ができ、血小板の働きが活性化して血栓症を発症する可能性が高いようです。接種の際は、60歳未満の女性で経口避妊薬やホルモン剤を服用している方は注意が必要でしょう。また脳の血栓症が多いようで、接種後数日の間、頭痛がしたり物がかすんで見えたりしたら、病院に行くほうがいい。接種に向けては、こうしたことを盛り込んだガイドラインを早く作る必要があります」

 そのうえで寺嶋教授も、アストラゼネカ製ワクチンの必要性を説く。

「血栓症リスクが低い60歳以上の方や男性には、アストラゼネカ製でいいという方も、一定数いるのでは。そういう人に打てば完遂率は上がって、ワクチン接種のスピードアップの大きな助けになるでしょう。また、ファイザーやモデルナ製でアナフィラキシーショックが出た人には、アストラゼネカ製が切り札になる。選択肢を増やす意味でも、早くガイドラインを作る必要があると思います」

 ワクチンは新型コロナの発症や重症化のほか、感染自体も予防できるとわかったのに、厚労省はアストラゼネカ製の接種を見送っている場合ではない。

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