「BAD HOP」メンバーが語る地元・川崎“南部”の不良文化 今や成功した彼らの原点とは

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潜伏中にBAD HOPと出会い…

 川崎駅にほど近いゲームセンターの駐車場。ゾンビの格好をした若者たちがはしゃぎながら、九龍城(クーロンじょう)をモチーフにした店内に吸い込まれていくのを眺めていると、果たしてここがどこなのかわからなくなるようだったが、同じ年頃の男女を冷めた目で見つめるAKDOWの話を聞いていると、やはり、自分は川崎サウスサイドにいるのだと思い知るのだった。

「川崎と鶴見って昔からモメてたんですよ。鶴見でコルクかぶってもいい(筆者注 コルク製のヘルメットが暴走族の定番であることから、チームに加入する許可を得るという意味)ことになったときも、先輩に『川崎には絶対ナメられるな』って言われましたし。川崎の不良と会うと『てめぇ、鶴見人だろ?』『鶴見だけどなんだよ? てめぇこそ川崎人だろ』みたいに、絶対喧嘩(けんか)になりますから。でも、鶴見の場合は、東京に向かおうとしたら、川崎を抜けないといけない。仕方がないんでコルクと単車は置いて、普通の半帽(ヘルメット)と原付で行く。もしくは、信号で止まらないで突き抜けるっていう。横浜ナンバーが見つかったら、地元の不良がすぐ追っかけてくるんで。そういうわけで、川崎には良いイメージがなかったですね」

 AKDOWは、自分を「流されやすい」と評する。彼の地元の場合、不良は中学卒業後、表の社会で働くか、裏の社会で働くか、いずれにせよ犬のようにこき使われて生きるしかなかったという。そして、暴走族時代にすでに先輩から目をかけられていた彼は、自然と後者の道へ進んでいった。しかし、流された先は袋小路(ふくろこうじ)だったのだ。情報詐欺(さぎ)や薬物売買の実動部隊としてこき使われた17歳のAKDOWは、意を決して逃亡。潜伏生活を送った末に、次の生活の地に選んだのが、ほかでもない川崎だった。

「潜伏中は、遊びに行ける場所も限られてて。そんなある日、地元の友達でDJをやってたヤツが、川崎のクラブにゲストで呼ばれたって言うんで、一緒なら大丈夫だろうってついていったら、それがBAD HOPのイベントだったんです。もともと、ヒップホップは好きじゃなかったんですけどね。赤玉食ったり、脱法ハーブやガスやったりして、サイケ(デリック・トランス)のパーティーでぶっ飛んでるような人間だったんで」
(筆者注 赤玉とは睡眠薬ニメタゼパム(商品名・エリミン)の俗称。入手が容易なこともあって、ドラッグとして流行した。2015年11月に販売中止。ガスとは亜酸化窒素を指し、通称は笑気ガス。2016年2月に指定薬物に指定され、一般への販売が中止となった)

ラップは「全然できなかった」

 そして、イベントで友人から紹介されたT-Pablowは、AKDOWに、何もせずにブラブラしているんだったら、ラップをしてみたらどうだと勧めたという。

「地元の同年代でラップをしてたヤツもいたんですけど、中学のとき、自分にペコペコしてるようなヤツだったんで、でけぇツラしてるのが気に食わなくて。だから、『あいつにできて、オレにできねぇわけねぇだろ』みたいな感じでやってみたら、全然できなかった。『なんだこの難しさは!?』っていう。でも、悔しくて続けてるうちにハマっていきましたね」

 AKDOWはラップを始めたのも“流された”結果だと笑う。

「墨(=刺青)の柄も、すぐその場のノリで決めちゃうんですよ。だから、女受けを狙(ねら)ってアリエル(ディズニー映画「リトル・マーメイド」の主人公)とか入れて後悔してるし」

 ただ、彼は“流された”というより、ラップによってどん底から救い上げられたのではないだろうか。――そのとき、AKDOWのiPhoneが鳴り、スクリーンに“T-Pablow”という文字が表示された。そろそろ、時間のようだ。JR川崎駅周辺の雑踏は買い物客から酔客へと入れ替わりつつあった。

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