大沢啓二、金田正一、西本幸雄…昭和の「暴れん坊監督」が残した人情味溢れるエピソード
「お前はオレをなめとるんか!」
暴れん坊と言うより、“頑固親父”のイメージが強かったのが、阪急、近鉄で一時代を築いた西本幸雄監督だ。
近鉄監督時代の75年5月30日の阪急戦、0対1の5回にベンチ前で円陣を組んだ西本監督は、剛腕ルーキー・山口高志を攻略するため、「高めのボールに手を出すな。絶対に1球目は打つな」と指示した。
ところが、先頭打者の羽田耕一は、高めの初球をファウルしたあと、簡単に遊ゴロに倒れた。怒り心頭に発した西本監督は、羽田がベンチに戻ってくるなり、「お前はオレをなめとるんか!」と怒鳴りつけ、頬にビンタをお見舞いした。
だが、羽田は先頭打者で円陣の外にいたため、指示を聞いていなかった。捕手の梨田昌孝からその事実を知らされ、誤解が判明する。
立場上、謝罪の言葉を口にできなかった西本監督だが、一見茫洋としていながら、「大選手になる素質がある」と見込んだ羽田を、殴打事件以降も辛抱強く使いつづけた。打率2割台前半と確実性に乏しかった羽田はその後、近鉄がリーグ2連覇を達成した80年に30本塁打を記録するなど、チームの中心打者に成長した。
そして、西本監督は81年限りで惜しまれつつ勇退。シーズン最終戦直後に行われたお別れセレモニーで、選手全員と順番に握手を交わした西本監督が、一番長く羽田の手を握っていたことから、みんなが嫉妬したという話も伝わっている。
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