面従腹背の文在寅 ソウルに戻ると即、金正恩に“詫び状” 米国でも始まった「嫌韓」

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日頃は反米、困ったら泣きつく

――韓国にも厳しい姿勢ですね。

鈴置:駐米韓国大使が「米国との同盟が国益につながるとは限らない」と堂々と語って「同盟破棄」あるいは「中国陣営への鞍替え」を示唆する時代になりました(「『核武装中立』に突っ走る文在寅、朝鮮戦争終結宣言で『米韓同盟』破棄へ」参照)。

 中国との対立を深める米国が韓国を敵と見なすのは当然です。それでいて困ると「ワクチンをくれ」と纏わりついてくる(「『韓国へのワクチン供給は後回し』と公言した米国務省 バイデンがQuadから逃げ回る文在寅にお灸」参照)。道義的にも韓国はまともな国と見なされなくなっているのです。

「文在寅を相手にせず、左派を自滅させよう」との意見も堂々と語られ始めました。アジア専門家のG・チャン(Gordon Chang)氏が米政治専門メディア『The Hill』に寄稿した「Bad Moon falling: South Korean leader falters in summit with Biden」(5月24日)です。

 見出しの「月」とは「文」の英語表記が「Moon」であることから、「文在寅」と楽曲「Bad Moon Rising」にかけたのでしょう。

 書き出しから激しい。「韓国史上で最も反米的な大統領がワシントンを訪れたが、欲しい物は手に入らなかったようだ。彼は外交日程をこなす間、微笑み続けていたが、疑いもなく狼狽し失望していた」。

 記事の後半では「同じ党派から2人続けて大統領が出る、という過去のパターンに従えばだが、文はもっと反米的な指導者に政権を譲ることになる」とあります。李在明知事のことです。

 そして結論が「来年3月の韓国大統領選挙に米国は介入する力はない。だが、バイデンは何もしないことで結果を出せる」です。

 要は、来春の大統領選挙での左派の当選を防ぐために、文在寅政権に点数を稼がせてはいけない、そのために北朝鮮との対話を急ぐな、と主張したのです。

価値観を共有できぬ国

――米国も「嫌韓」なのですね。

鈴置:40年間以上、朝鮮半島を見つめてきましたが、こんなことは初めてです。米国の「嫌韓」は今のところ、専門家の間に留まっていますが。

 首脳会談の直前にも朝鮮半島専門家のS・スナイダー(Scott Snyder)氏が『Forbes』に寄稿、北朝鮮の人権問題から目をそらす文在寅政権と価値観を共有できるのか、と疑問を投げかけています。

Joe Biden’s Summit With South Korea’s Moon Jae-In Poses a Question of Shared Values」(5月20日)です。

――専門家はともかく、バイデン政権は「分かっている」のでしょうか。

鈴置:この政権には韓国を熟知した人が多い。大統領も、中国に対する抜きがたい恐怖感といった韓国人のメンタリティまで理解しています(「『バイデンから電話が来ない』と気を揉む韓国人 原因は『習近平コール』か、それとも――」参照)。

 米韓首脳会談で文在寅大統領に出した食事を見ても、この政権の韓国への理解度と姿勢がよく分かります。

「crab cake」は米俗語では……

――韓国紙が「日本よりも上に扱われた証拠」として誇ったクラブケーキですか。

鈴置:その通りです。「菅義偉首相のハンバーガーと比べ、もっと高級な料理が我が国の大統領には供された」と韓国人が大喜びした、あのクラブケーキです。

 米俗語で「crab cake」は「友達でもないのに纏わりついて来て離れない奴」を意味します。バイデン大統領は「面従腹背のこの男、ソウルに戻ったらすぐに掌を返すのだろうな」と心の中で呟きながら「crab cake」を勧めたのでしょう。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮取材班編集

2021年5月31日掲載

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