BTS(防弾少年団)も例外ではない――韓国の「兵役」がもたらす刹那的男性アイドル

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 韓国発のアイドルグループBTS(防弾少年団)の快進撃が止まらない。今年3月、グラミー賞にノミネートされた「Dynamite」のMVは再生回数10億回を突破、まもなく21日に公開される新曲を世界中のファンが待ちかまえている。BTSに限らず、なぜ韓国の男性アイドルは世界から熱狂的な支持を集めるのか。その背景のひとつに「兵役」があると見るのは、韓国の雑誌社でデザイナーとして勤務し、現在はライターでもある田中絵里菜さんだ。兵役とファン心理との関係を、新刊『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』(朝日出版社)から抜粋して紹介する。

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兵役のタイミングはいつ?

 応援しているアイドルの年齢から今後の芸能活動を勘案し、兵役のタイミングを予測する。日本のファンならそんなことはしない(というか想像もしない)だろう。しかし、朝鮮半島の南北に国家が分断され、北朝鮮との戦争(朝鮮戦争)も「休戦」状態が続く韓国では、普通の行ないだ。国防意識を高める意味からも現在も徴兵制が強固に維持されていて、韓国のすべての成人男性には、一定期間軍隊に所属し国防の義務を遂行する「兵役」が課されている。

 もちろんアイドルも例外ではない。満18歳から徴兵の対象者となり、特別な理由がないかぎり満28歳になるまでに入隊しなければならない。兵役の期間は、陸軍と海兵隊は18か月、社会服務要員(自宅から区役所や福祉施設に通勤)は21か月、専門研究要員は36か月、などと配属先の条件によって服務期間も異なる。

 兵役のない国から見れば、青春真っただ中な20代の1年半~2年ほどを国のために使うというのは気の毒に感じてしまう。どんな仕事をしていても「空白期間」になってしまうし、特に20代が活動のピークになるアーティストやアスリートにとって、この兵役期間はその後のキャリアにも大きな影響を及ぼす。ここ3~4年のあいだには除隊後にカムバックするグループも少しずつ増えてはきたが、兵役がネックとなって自然消滅したアイドルグループは数知れない。

 そもそも兵役以前に契約の問題もある。韓国では以前から問題となっていた悪徳な「奴隷契約」をなくすために、2009年に公正取引委員会が「大衆文化芸術人の標準専属契約書」に沿った芸能契約をするよう定めた。これに従うと芸能契約は最長7年までに限定されている。そこから「7年のジンクス」と呼ばれているほど、どんなに人気のあるグループでも7年目にメンバー全員揃って事務所と契約延長することは珍しく、そのままメンバーが脱退したり解散したり、もしくは自然消滅したりする。

 毎年100組近くのグループがデビューしているK-POP界において、こうした兵役や契約の壁を乗り越えて8年、10年と長く続いているアイドルグループというのは本当に希少だ。ただでさえ競争の激しい業界で1年以上も活動のブランク期間を作るわけだから、アイドル当人にとっても、事務所にとっても、できるだけ慎重にタイミングを見計らいたい問題だろう。

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