BTS(防弾少年団)も例外ではない――韓国の「兵役」がもたらす刹那的男性アイドル

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事務所利益、激減

 K-POP大手事務所のYGエンターテインメントは、看板グループだったBIGBANGの入隊によって空白期が始まった2018年の営業利益が前年度より62%も減少した(94億ウォン=約9億24万円)。メンバー全員の入隊時期を揃えたBIGBANGでもグループが完全体ではない期間が2年9か月もあったのだが、この数字を見ても、人気グループの兵役は事務所にとっても(もちろんファンにとっても)大きな痛手となる。グループの人気や所属事務所の体力によっては、兵役のタイミングで解散してしまうこともあるのだ。
 それでも、兵役の空白期間を乗り越えてなおも活動し続けるグループは以前に比べると少しずつ増えてきている。たとえば、SUPER JUNIORはメンバー10人全員が軍務を果たすのに約10年もかけ、2020年に行なったオンラインコンサート「Beyond the SUPER SHOW」では全世界で12万3千人もの視聴者数を記録するなど、変わらぬ人気を証明している。

 そうやって兵役後にも人気を維持してアイドルを続ける場合でも「常に変化することが大切」だとK-POPライターのパク・ヒアさんは指摘する。「アイドルのキャリアが最近延びているのは事実ですが、自分たちの年齢に合ったコンセプト設定が大事です。東方神起のように年齢を重ねるにつれジェントルマンのイメージに変更していくなど、より成熟した姿を見せるべきです。もともとかわいらしいコンセプトで活動していたアイドルが、除隊後に年齢にミスマッチなことを続けると無理が生じますよね。神話というグループも兵役後にリリースした「This Love」(2013年)で、30代の大人のセクシーさをダンスで表現するなど、年齢に応じて新たな挑戦をし続けた結果、デビューから22年経った現在でもメンバーの誰一人欠かさずにグループ活動をしています」。兵役という大きな障壁を乗り越えた先に成熟した姿を見せていくことで、デビュー当時は同じく若かったアイドルファンたちと一緒に歳をとっていけるような関係が生まれるのかもしれない。

「このメンバーで見られるのは最後かもしれない」

 とはいえ現実的には、兵役から戻ってきたアイドルたちの居場所はまだまだ不十分だ。契約問題もあれば事務所の資金状況もあるし、数年単位で音楽シーンの状況はめまぐるしく変わる。兵役という「断絶」をその先に見つめているからこそ、主に20代のアイドルも目の前の一瞬一瞬に全力を注ぎ、激しいパフォーマンスで身を燃やし続けている。ファンの側も「このメンバーで見られるのは最後かもしれない」という想いから、その再現不可能性にプレシャスな感情を抱いて応援する。この「今しかない」という刹那性が韓国アイドル界の中心にあって人々の目を絶えず引きつけているからこそ、BTSの兵役延期が国民共通の願いになり、法律を変えてしまうほどの運動になったのかもしれない。

田中絵里菜(Erinam)
1989年生まれ。日本でグラフィックデザイナーとして勤務したのち、K-POPのクリエイティブに感銘を受け、2015 年に単身渡韓。最低限の日常会話だけ学び、すぐに韓国の雑誌社にてデザイン・編集担当として働き始める。並行して日本と韓国のメディアで、撮影コーディネートや執筆を始める。2020年に帰国してから、現在はフリーランスのデザイナーおよびライターとして活動。過去に「GINZA」「an・an」「Quick Japan」「ユリイカ」「TRANSIT」などで韓国カルチャーについてのコラムを執筆。韓国・日本に留まらず、現代のミレニアルズを惹きつけるクリエイティブやカルチャーについて制作・発信を続けている。
Instagram: @ i.mannalo.you

デイリー新潮取材班編集

2021年5月19日掲載

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