国立大学総長選がわからなすぎる 学生無視、おかしな選考方法が変わらないワケ
ワクチン接種騒動で詳らかにされつつあると思うが、既存の日本のシステムにはガタがきている。有名国立大学もご多分にもれず、世間の目は昨今厳しい。最大の理由は、旧態依然として変わらない人事構造や、国際的にも論文数が減るなどの地盤沈下だろう。このままでは若手研究者や学生が満足に学べなくなる。そんな大学のあり方に物申すため、専門の病理学を易しく伝える著書や柔和な語り口で「大阪のおっさん」として親しまれる大阪大学医学部の人気教授が、なんと大学総長選に出馬した! 身近なところから大学改革をする、とその鼻息は荒いが、そもそも総長とはどういう人がなり、なにができるのか。渦中の仲野徹教授に状況を報告してもらった。
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国立大学に対する世間の目は厳しい。最大の理由は、旧態依然として変わらない、いや、積極的に変わろうとしないからだろう。そんな状況を打破したいという思いから、母校、大阪大学で研究を重ねてきた一介の生命科学研究者にすぎないが、総長選考に名乗りを上げた。何人もに背中を押されて、大学を改革するために何ができるのか、立つことに意味があるのかと自問を重ねての決断である。
どうせ無理だとあきらめずに、大学は変われるという意識を持てば、少しずつでも動き出せるはずだ。単純すぎるかもしれないが、そうなれば改革につなげることができるのではないか。そういった思いから、まず、「かわろう! 大阪大学」(https://handainakano.jp)というHPを開設した。他の2人の候補とちがって、組織の後ろ盾がゼロというインディーズ系候補。気分はちょっとドン・キホーテ、ではある。
かつての学長選挙(旧帝大では戦前のままに「総長」という呼称が慣例的に使われているが、一般的には「学長」である)では、ヴァチカンの「コンクラーベ」のごとく、過半数を得るまで投票が繰り返された。しかし、今は違う。学長選考会議が最終的に決定する。(大阪大学の総長選考会議は、総長が任命する経営協議会の学外委員から6名、学内の教育研究評議会評議員から6名の計12名)一般的には構成員による「意向投票」が行われるが、それはあくまでも最終選考の参考でしかない。
ちょっとおかしいと気付かれた方がおられるかもしれない。もし、総長が続投を希望した場合、公平性が担保されるのだろうか、と。ごもっともだ。建前としては、総長選考会議は独立して運営することになっている。とはいえ、誰が考えてもおかしい。ちなみに、今回の大阪大学での総長選考では、現職総長も候補者のひとりである。こんな制度がまかり通っているのが、国立大学法人なのだ。意向投票すら行われずに学長の続投が決定された筑波大学などで学長選考が問題視されたのは、こんな制度のせいと考えて差し支えないだろう。
従来は、そして現在も、選考のための有権者への運動は、個別訪問や、特定のグループや部局での閉じられた懇談会がメインである。そのような場でどのような約束がなされたかは外部から知ることはできない。もちろん、約束が実行されたかどうかもわからない。あまりに不透明だ
朝日新聞に「学長レースの勝ち方」という記事があった(令和3年2月23日「耕論」)。3人のインタビュー記事掲載者のうちのお一人、京都精華大学・学長のウスビ・サコ先生はマリ共和国出身で、日本の大学においてアフリカ出身者として初めて学長になられた方だ。「何をしたいか掲げ、選ばれた」と題されたインタビューに書かれている戦略は「何をしたいかを書いたマニフェストをつくり、候補3人の討論会で訴えました」と、実にシンプル。学長選挙はこうあるべきだ。
大阪大学は「開かれた大学」を謳っているのだが、残念ながら、その総長選考はまったく開かれていない。候補者は所信表明書を提出するのが通例だ。同じ時期に行われている宮崎大学の学長選考では所信表明がHPでオープンにされているが、大阪大学では学内限定公開である。次に総長になる人がどのような考えであるかを一般の方に知ってもらうチャンスではないか。どうして公開されないのか不思議である。
そんなことでは何も変わらないぞと、わたし自身の所信表明は、「かわろう! 大阪大学」で広く公開している。それだけでなく、どうして立候補者になろうと考えたか、どのような改革を行いたいかなどについてのコラムを連日アップしている。目指すは、活気あふれる明るい大学だ。とはいうものの、いうは易し行うは難し、である。具体的になにを行うか。
最優先課題はジェンダーギャップの解消である。15年前に国際学会で強烈な体験があり、10年もたったら日本も大きく変わるだろうと思っていたのだが、旧態依然としたまま。ジェンダーギャップ指数はG7の中で最下位、世界120位というありさまだ。他の国立大学法人と同じく、大阪大学でも女性教員比率30%を目標に掲げているが、道は遠い。これを解決するにはポジティブアクションをとるしかあるまい。
また、大学のサステナビリティの面から、若手研究者の育成も急務である。それには、外国では広く取り入れられている「テニュアトラック制」という、若手研究者を任期付きポストで早い段階で独立させ、その育成をしながら能力を見極めて終身雇用にするという制度が望ましい。そういった制度を取り入れながら、タコ壺と揶揄されることもある旧来の講座制から大講座制へと転換していけたら申し分ない。
単に発信するだけでなく、みんなの声を聞くことも必要だ。なので、HPでは「対話の部屋」を設けて、広くご質問やご提案を受け付けている。ちいさな活動だが、大学がさまざまなことをオープンかつ積極的に発信し、対話するテストパターンのようなものと位置づけている。
ちなみに、各大学によって意向投票の有権者は違う。教員層では、東大、京大は教授だけでなく、准教授、講師にも投票権がある。一方、阪大は教授に限定されている。一長一短あるだろう。しかし、以前のように投票で最終決定されるのではなく、あくまでも意向調査なのだから、准教授や講師にも意思表示してもらうのが妥当ではないか。改革という面では、間違いなく、教授に限定したほうが後ろ向きになるだろう。どう勘案するかは別として、大学における最大派閥である学生の声も聞いたほうがいい。
非公開で行われる総長選考会議での面接はすでに終了し、つぎは所信表明演説会だ。これは学内限定とはいえ公開だが、残念ながら、サコ学長の場合とは違って、候補者同士の討論は行われない。そして意向投票を経て選考という運びである。興味を持つ人がどれくらいおられるかは別として、これらの内容を広く公開して何が困るのだろうか。面接では思いの丈をぶつけてきたが、内容は厳秘と念押しがあったので、さすがに書くわけにはいかない。
たかが総長選考、されど総長選考。どのようなリーダーが選ばれるかによって、大学の未来は大きく左右される。勝ち負け云々ではなく、わたしの小さな活動が、今後の学長選考方法の改善や、大学の活性化に少しでもつながれば望外の喜びである。