茨城一家4人殺傷、犯人の異常行動を見過ごした両親 ナイフ71本を買い与え、モンスターを放置

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異常行動を見過ごす両親

〈中学3年生の頃、吾義土に将来何をやりたいのか聞いたことがあったのですが、その時吾義土は、「ネオニートになりたい」などと言っていました。吾義土の言うネオニートというのは、どうやら自宅でパソコンを使って株取引で儲ける人たちを意味していた〉(母親の供述調書)

 高校に入ってからは、何かの拍子に「俺は神だ」と言い出したこともあった。

 そんな岡庭容疑者が父親から与えられたデスクトップ型のパソコンでインターネットを閲覧するようになったのは小学5年の時である。アダルトサイトや暴力系サイトの閲覧制限やパスワードの設定などの措置は一切講じられていなかった。

〈吾義土は、人が殺されるようなスプラッター系のホラー映画を自宅の居間のテレビや自室のパソコンで見ていた〉(判決文より)

 しかし、両親がそれを注意することはなく、

〈中学3年生の頃からインターネットで女性の死体や女性が残虐な行為をされている動画や映画を見て性的な興奮を感じるようになり、高校生になる頃には、自分で実際に女性に対して残虐な行為をしたいと思うようになった。(中略)高校1年生の頃から、凶器類を携帯して殺す女性を物色するようになっていた〉(同)

 前述した通り、それらの凶器を購入する手助けをしていたのは父親である。

〈中学3年生の終わりか、高校1年生の初め頃、インターネットのオンラインショップでナイフを売っているところを見つけ、それにとても興味を示すようになりました。(中略)私が吾義土に「なんで欲しいの」などと尋ねると、吾義土は、「かっこいいからコレクションしたい」などと言っていました。私は、自分に収集癖がなく、コレクターの気持ちはわかりませんでしたが、世間では刃物のコレクターもいるというし、好きな人は好きなんだろうなくらいにしか考えませんでした〉(父親の供述調書)

 どうやら常識というものを持ち合わせていない様子の父親は、「外に持ち出さない」などといったことを約束させた上で、ナイフ購入を許してしまう。そして岡庭容疑者は、最終的には父親の助けを得ずに購入したものも含めると、71本もの刃物を所有するに至るのだ。

〈私は、吾義土が前に集めていたカードがみるみる増えていったのを覚えていたので、趣味でやる以上、いろんな刃物が欲しくなっていくのは自然な流れだし、家の中で保管する分には、それはそれで仕方がないと思ってあきらめてしまいました。このように私も主人も、吾義土の刃物のコレクションについては、家の中だけのことと考えており、あまり深刻に受け止めていませんでした〉(母親の供述調書)

 母親も相当に「抜けた」人物であることは間違いなかろう。先に触れた通り、岡庭容疑者は連続通り魔事件を起こす前、高校に猫の首を持っていくという異常行動を起こしていた。岡庭容疑者の両親がそれすらも見過ごしてしまったのは、必然だったのかもしれない。

 母親はこう述べている。

〈生活指導の先生がはじめに吾義土に猫の首が本物かどうか問いただしたのですが、何度聞いても、吾義土は、おもちゃの首だと言い張っていました。(中略)担任の先生から、吾義土の身体検査をしていいかどうか聞かれ、私は、まさか吾義土が刃物を持ち歩いているとは思っていなかったので、その場で身体検査を了承しました。ですが、実際に吾義土の身体検査をしてみると、吾義土のズボンの後ろポケットから2本のナイフが見つかりました〉

〈吾義土はナイフが見つかって観念したのか、学校に持ち込んだ猫の首が本物であることを認め、自分の庭で斧を使って猫の首を切り落としたと話しました。私は、猫の首を切り落とすなんて気持ち悪いと思い、とてもショックを受けました〉(同)

 しかし、母親も父親も猫の首を切り落とした理由すら本人に聞かないまま、問題を放置。そして岡庭容疑者はついに、猫ではなく少女に刃物を向けたのだった。

無責任な裁判官

 刑事裁判にかけられた、当時18歳の岡庭容疑者に判決が下されたのは2013年3月。

 現状のままでは再犯の可能性は高いと言わざるを得ない、としながらも、「保護処分に付するのが相当」としたその判決では、両親が適切な養育を行ってこなかったことにも触れた上で、次のように結論付けている。

〈そのような経緯により、被告人は、残虐な行動によって性的欲求の充足を含む快楽を得ようとする歪んだ思考や価値観が形成、深化され、本件一連の犯行に及んだのであって、生まれつきの広汎性発達障害や生育環境が動機に直結している。そうすると、そのような事情は被告人の責めに帰することのできないものであるから、被告人が犯行時16歳であったことも併せ考えれば、動機の悪質性を被告人に不利に考慮するのは相当でない〉

 医療少年院送致を決めた家裁の決定要旨では、5年間程度の処遇を勧告し、

〈(23歳で)なお精神に著しい故障がある場合には、26歳を超えない期間において医療少年院での収容を継続することが検討されるべきである〉

 とした。

 ちなみに、茨城県で夫婦を殺害したとされる時点での岡庭容疑者の年齢は24歳である。

 犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務局長で弁護士の高橋正人氏が言う。

「普通に社会生活を送り、まっとうに生きている発達障害の人もたくさんおられます。犯行の動機や処分の内容を、発達障害であることを主な理由にして判断することはあまりに拙速過ぎます。この判決を下した裁判官は無責任ではないでしょうか。裁判官の身分は憲法で保障されていて、どんな判決を下しても給料は減額されないのですから、しっかりと常識を踏まえた判決を下して欲しいです」

 自身の長男も16歳の少年に殺(あや)められた「少年犯罪被害当事者の会」の武るり子代表は、

「現在、少年法の改正について議論されてはいますが、加害者が少年の場合、なるべく保護処分に持ち込もうとする傾向は依然として強いです。少年には将来があるから、という理由で、どんな少年もいっしょくたにされている現実がある。しかし、論点となるべきは“何をやったか”であって年齢ではありません」

 として、こう語る。

「家裁で保護処分を言い渡されるのと、刑事裁判を受けて刑事罰を加えられるのでは、本人の心に与える衝撃という意味でも、大きな違いがあります。広汎性発達障害だったとしても、刑事罰を受ければ自分がやったことの重大さを認識できるはずです」

 岡庭容疑者が送られた医療少年院の対応についても、

「そこでいったいどんな矯正教育を施したのだろうか、と問いかけたいです」

 と、武代表。

「現状の医療少年院での教育は不十分です。少年院には、加害少年を刺激しないために、事件に触れさせることをできるだけ避けてきた歴史があり、今でこそ多少の贖罪教育はあれ、そういった風潮は未だに残っている。医療少年院に限らず、日本の矯正施設全般で十分な矯正教育が行われているとは言えない。新しい被害者を生まないためにも少年法の改正だけでなく、矯正教育の見直しも必要です」

 残念ながら第二の酒鬼薔薇は野に放たれ、2人が殺された。現状のままでは、第三、第四の酒鬼薔薇によって悪夢が繰り返されよう。

週刊新潮 2021年5月20日号掲載

特集「少年法が生んだ『茨木一家4人殺傷』の怪物」より

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