本当に「鬼滅の刃」を造ってしまった刀鍛冶 蛇柱と恋柱、ふたつの日輪刀に込めた想い

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 劇場版が日本映画として22年ぶりに全米興行収入1位に輝くなど、世界中で人気を呼んでいる「鬼滅の刃」(以下「鬼滅」)。主人公・竈門炭治郎や我妻善逸、煉獄杏寿郎など個性豊かなキャラクターとともに作品を彩るのが、鬼殺隊隊員が持つ鬼を殺す刀「日輪刀」だ。とくに「柱」と呼ばれる鬼殺隊最強の剣士たちは、それぞれが独特な日輪刀を持っている。

 この日輪刀を現実の世界で作っている人物がいる。岐阜県羽島市にある工房「淺野鍛冶屋」の刀鍛冶・淺野(あさの)太郎さん(45)だ。自身のYouTubeチャンネル「ASANOKAJIYA studio」で日輪刀を製作する様子を公開している。

 刀に向き合って15年以上。アメリカ、フランスなど世界各国で講演を行う刀匠が、日輪刀に挑むきっかけとなったのは、昨年11月に、雑誌「UOMO」から受けた“刀匠から見た鬼滅の刃の魅力”についての取材だった。

「取材を受ける前に、原作の単行本が全巻届いたんです。漫画を読んだら非常に面白くて、とくに刀の描写に惹かれました。これまで漫画に出てくる刀は大きいか、小さいか、薄いかなどの重さの要素と形の違い、この2つに集約されていました。ですが『鬼滅』はそこに刀身の色という要素を加えていた。この表現は革命的だと思いました」

 持ち主によって刀身の色が変わるという設定に惹かれたという淺野さん。いつしか自らの刀鍛冶としての技術を使い、日輪刀を再現したいと考え始めた。

実際に「蛇柱」から注文を頂いたつもりで…

 さまざまな日輪刀がある中、淺野さんは“蛇柱”伊黒小芭内、“恋柱”甘露寺蜜璃の2人のキャラの日輪刀を製作することを決める。2人の刀に決めた理由も、刀鍛冶ならではの考えからだ。

「形状として一番難しいのは伊黒の日輪刀、技術的に一番難しいのが蜜璃の日輪刀だったので、この2本に決めました。他の刀鍛冶では再現できないものにあえて挑戦しました」

 第一弾として伊黒の日輪刀作りに取り組み始めたのは昨年秋だった。伊黒の刀の特徴は蛇のように波打つ刀身、そして両刃であることだ。どちらの特徴も普通に作れば折れやすい刀になってしまう。

 そこで淺野さんは伊黒の刀に耐えられる粘り気のある鉄を作るため、原作漫画にも登場する「玉鋼」を複数混ぜて、特別な「伊黒ブレンド」の鋼をつくった。さらにその特製の鋼を鍛え、伸ばし、叩いて、蛇のような形状の伊黒の刀に近づけていく。ついに完成した日輪刀は、原作から飛び出したようなほどの見事な出来栄えだった。

 淺野さんの日輪刀作りで驚かされるのが、形だけでなく刀としての実用性を追求している点だ。伊黒の日輪刀であれば、公式のキャラクターの設定「162センチ」の小柄な身長に合わせた刀の長さを調整する。YouTubeでは切れ味を試すために、大根や巻きわらを使って実際に試し切りをする様子も収められている。

「実用性は大事なポイントです。形を真似るだけならどんなものでもできますが、実用性のない刀を刀鍛冶としては作ることはできない、実用性をなくしてしまうとおもちゃになってしまうからです。ただ日輪刀を作るのではなく、実際に伊黒さん本人からご注文をいただいた場合を前提に作っています」

次ページ:2本目は恋柱の刀、さて売ったらいくらになるのか

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