「鬼滅の刃」連載終了の理由 女性作者が福岡の実家から心配されていることとは

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 これから冬にかけ、新型コロナウイルスとインフルエンザが同時に流行する「ツインデミック」が不安視される中、我々ができるささやかな防衛策は手洗い、うがいやマスク、そしてインフルエンザの予防注射を打つことくらいだろう。

「全集中」――。

 巷間、あちこちのクリニックでは予防接種のために親と訪れた子どもに対し、こんな言葉が投げかけられている。すると、それまで泣き叫んでいた子どもは呼吸を整え、恐怖の対象でしかない注射針の先端が我が身に刺さることを静かに受け入れるのだという。

 この「全集中」とは、公開10日で国内の映画史上最速、興行収入100億円を突破し、空前のブームとなっている映画「鬼滅の刃」に出てくる台詞である。

 もともと2016年から「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載されていたこの作品。内容を簡単に説明すると、舞台は大正時代、家族を鬼に喰い殺され、唯一生き残った妹を鬼にされた主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)が妹の禰豆子(ねずこ)を人間に戻すべく鬼と闘うという物語だ。炭治郎は「鬼殺隊」の一員となり、剣士として、さまざまな技を駆使して鬼を倒していく。その技を繰り出す際に、全身の血の巡りを速くするため「全集中」という言葉を唱えるのである。

 アニメ業界に詳しいジャーナリストの数土直志(すどただし)氏は、

「このペースでいけば、興行収入200億円超えも視野に入ってきます。来年1月『エヴァンゲリオン』の新作映画が公開されるまで有力な映画はないので、さらなるヒットが期待できます」

 これほどの大ヒットとなったのにはいくつかの要因が挙げられる。火付け役のひとつは昨年4月から9月にかけて、TOKYO MXで放映されたTVアニメである。

 それまで20万部ほどだったコミックスの初版部数は放映開始後に100万部、今年に入ると150万部以上に跳ね上がった。

「放映終了後もNetflixなど20以上のサイトで配信され、見逃した人も繰り返し見られる環境を作り、ファン層を拡大していきました」(芸能記者)

 アニメ化で称賛されたのはクオリティの高さだった。

「戦闘シーンの疾走感溢れるアクションや緻密な背景描写は他のアニメと比べ物にならない。手掛けたのはユーフォーテーブルという制作会社。業界でピカ一の技術を持っています」(同)

 先の数土氏が解説する。

「業界でもトップクラスの質の高さですね。例えば、『ドラえもん』や『アンパンマン』はシンプルな線で描かれる一方、ユーフォーテーブルの場合は複雑な線を描き込みます。シンプルな線よりも、複雑な線を動かすにはより手間が必要。クオリティを保つため、同時に制作する本数は数本程度。大手の会社は10本同時に進めることもありますから、生産ラインの少なさが分かります」

 アニメ業界の関係者が補足する。

「ユーフォーテーブルの制作費は普通のスタジオに比べ1・5倍は高いとされています。今回の映画でも制作を請け負っていて、映画だけで数億円はかかっている。ユーフォーテーブルに発注したのは集英社へ映像化を打診し、TVアニメと映画でプロデュースを手掛けたソニー傘下のアニプレックスという企画や配給も行う会社です。アニメやゲームに出資し、数々のヒット作を生み出し、今回のアニメ化も仕掛けた。ここが5年先まで生産ラインが空いていないとされるユーフォーテーブルを抜擢し、ブレイクのきっかけを作ったのです」

300億円以上

 しかし、このユーフォーテーブルは昨年来、脱税疑惑が報じられ、今年の6月に4億円以上の所得隠しをしていたことが発覚した。

「経営するカフェなどの売り上げを現金で抜き、申告しないまま社長の自宅の金庫で保管していたのです。すでに修正申告したと同社が明らかにしています」(同)

 ともあれ、集英社、アニプレックス、ユーフォーテーブルのタッグで作られた今回の映画。そこには“ぼろ儲け”の仕組みが隠されていた。

 この関係者が続ける。

「映画の製作にはこの3社しか名を連ねていません。通常は製作委員会が作られ、例えば10社が出資し、莫大な製作費を賄います。しかし、この映画はヒットすることを見越してわずか3社で製作した。もちろん、出資額は増えますが、その分リターンもアップします。非常に珍しい形式です」

 さらに、映画のキャラクターを使ったコラボ商品も数多く展開されている。

「この映画の特徴はコラボの多さ。くら寿司やローソン、ダイドードリンコなど、業界では“こんなところともコラボしているのか”と驚きが広がっています」(同)

 この二次使用の収益はいかほどなのか。

 著作権や商標権に詳しい平野泰弘弁理士が言う。

「アニメにおけるストーリーやキャラクターは著作権によって守られます。そのキャラクター使用を許可することで権利者はライセンス料を得ることができます。その金額は当事者間で決められるものですが、一般的には売価の5%と言われています。キャラクターの絵が入ったお菓子を100億円売り上げたなら、約5億円のライセンス料が発生します。有名ブランドや作品なら、それ以上の割合のライセンス料を課すこともあります」

 ちなみに「鬼滅」のライセンス料は6%とされている。

 興行収入とそれらを合わせた売り上げの分配について、先の記者が解説する。

「興行収入が200億円だった場合、100億円は劇場、残った100億円のうち1割から3割は配給会社(注・この映画では東宝とアニプレックス)に入ります。さらに残った70億から90億のうち、作者に入る原作使用料などを差し引き、最終的に残った額を出資比率に応じて製作3社で分配することになります。今回の場合、アニプレックスの出資額がおそらく一番高いと思われます」

 グッズなど二次使用の収益についても、

「映画のキャラクターを使用していますから、原作者に加え、グッズ化やゲーム化などそれぞれの権利を取得している製作3社にお金が落ちる仕組みです」

 興行収入に加えグッズなどの関連売上も含めれば、映画化による最終的な収益は300億円以上になるのは確実と見られている。この製作3社には少なくとも、それぞれ数十億円、多ければ100億円以上の金が転がり込んでくるわけだ。

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