本当に「鬼滅の刃」を造ってしまった刀鍛冶 蛇柱と恋柱、ふたつの日輪刀に込めた想い

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2本目は恋柱の刀、さて売ったらいくらになるのか

 2本目の日輪刀として作成した蜜璃の日輪刀だ。原作では「極めて薄く、柔い」と表現されており、薄くリボンのように変幻自在の刀だ。が、本来日本刀は「折れず、曲がらず、良く切れる」と言われている。この時点で矛盾が生じている。

 伊黒の刀よりもより現実離れした刀であったが、淺野さんは何度も試作を繰り返し、ついに蜜璃の日輪刀を完成させた。

 刀ながらしなやかに曲がり、試し切りでも切れ味は鋭い……。一方、原作のようなリボンのような長さまではなく、また玉鋼を使って作ることは今回できなかった。しかし、淺野さんはまだ諦めていない。

「動画に上げているのは蜜璃の日輪刀の試作1号です。日本刀と同じ玉鋼を使って、原作のようなあの薄さに対応できる鍛え方が今頭の中でだいぶ出来上がってきたので、いつかまた動画でご紹介する日が来ると思います」

 淺野さんが作ったこの日輪刀。もし売るとしたらいくらぐらいの値段がつくのだろうか。

「実は試算をしてみたら、伊黒の日輪刀は700万円になりました。日本刀の研ぎ師さんに出して、ちゃんと作ろうとするとそのくらいかかります。蜜璃刀は玉鋼で作られていないのでまだ未定です」

 せっかくならば、主人公・炭治郎や、ほかの柱の日輪刀も見てみたいと思うのがファン心理だろう。ただ淺野さんは次のように話す。

「この2つの刀で、みんなができないだろうと思っているものは作ってしまったんです。正直、残っている柱の日輪刀も作れます。けれど、ただコストがかかったり、ただ形が違ったりするだけ。日本国内では法律的に作れないものもあります。たんにコストがかかるだけですからね。だからどうしようかなというところです」

 刀鍛冶である淺野さんは、日輪刀の製作は“挑戦”であることが大事だったと語る。

「AIやITが発達し、人間の存在意義が問われる日が来ると思うんです。そのときにカギになってくるのが、個人の経験。つまり挑戦です。挑戦して成功した、または失敗したという結果自体が大事ではなく、失敗したという経験も価値を持つ時代がくる。だからYouTubeでは失敗した部分ものせていますし、動画を見て、こういう挑戦する人がいるんだと感じてくれたらうれしい」

 動画をアップするのにはもう一つ大きな理由がある。刀鍛冶のイメージを変えることだ。日輪刀を作る前には「ウルトラセブン」のアイスラッガーを日本刀の技術で再現した。最新のYouTubeではナイフ作りに挑戦している。

「刀鍛冶は山の奥で、白髪のおじいさんがやっているイメージがあります。ただ現実の刀鍛冶は違う。刀鍛冶をちゃんとお金があって自由で楽しく、そしてもてる存在にしたい(笑)。かっこいい、憧れる職業にするために僕ら自身がそうなるべきだと思っています。

 よい刀を作るのも大事ですけれど、より楽しく、より明るい鍛冶屋でありたいというふうに思っています」

 職人気質で個々で働く刀鍛冶だが、淺野さんはそこに風穴を開けようとしている。

「僕は淺野鍛冶屋を世界最強の鍛冶屋集団にしたいんです。僕は短所の多い人間ですが、その欠点をみんなで補い合って、逆に僕の経験をシェアしていく。日本だけでなく世界中の刀剣をつくっていきたいんです」

「鬼滅の刃」の中には刀鍛冶が集まる里が出てくるが、その現代版を淺野さんは作ろうとしているのかもしれない。

徳重龍徳(とくしげ・たつのり)
ライター。グラビア評論家。大学卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。記者として年間100日以上グラビアアイドルを取材。2016年にウェブメディアに移籍し、著名人のインタビューを担当した。現在は退社し雑誌、ウェブで記事を執筆。個人ブログ「OUTCAST」も運営中。Twitter:@tatsunoritoku

デイリー新潮取材班編集

2021年5月16日掲載

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