「名古屋アベック殺人」主犯少年のいま、無期懲役の身に置かれて

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 今国会での成立を目指し、審議中の少年法の改正案。来年4月の成人年齢引き下げに合わせ、18歳と19歳を「特定少年」と位置付けている。翻って1988年、日本犯罪史に残る凶悪事件を引き起こした当時19歳の「元少年」は、いま何を思うのか? 約30年、獄中での生活を続けている彼に、話を聞いた。

(「新潮45」2016年9月号より再掲)

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目と鼻の先にある「獄中」と「娑婆」

 2016年7月、JR岡山駅からタクシーで25分ほどの郊外にある岡山刑務所(岡山市北区牟佐)。正門脇の小部屋で手続きを済ませ、待合室のベンチで30分ほど待っていると、一番奥の面会室に入るよう指示された。その3畳ほどの小部屋は、中央で厚い透明のアクリル板によって仕切られていた。目と鼻の先にある「獄中」と「娑婆」は、互いに決して行き交うことのできない仕組みだ。「娑婆」側のパイプ椅子に腰掛けていると、「獄中」側のドアが開き、刑務官に促されるように、薄緑の作業服を着た男が入ってきた。ここで会うのは、約3年ぶりだ。

「お久しぶりです。お元気ですか」

 帽子を取って椅子に座ると、男はアクリル板に顔を近づけて、笑みを浮かべた。男の名前は中川政和(仮名)。1988年2月、世間を震撼させた「名古屋アベック殺人事件」(後述)の主犯格として無期懲役が確定し、ここ岡山刑務所での服役生活は20年になろうとしている。

 法務省は、全国にある刑務所を犯罪傾向や刑期によって、いくつかの種類に分けている。主に初犯の受刑者を対象にした「A級」や、暴力団などに属していたり過去にも入所歴があるなど、犯罪傾向の進んでいる受刑者を対象にした「B級」、精神に障害のある受刑者が入る「M級」、外国人を受け入れる「F級」などがある。そうした中でも、無期懲役囚が入所するのは「LA級」「LB級」の刑務所だ。Lは「ロング」の頭文字で、文字通り刑期が長いことを意味している。

 その中で岡山刑務所は、「懲役8年以上で犯罪傾向の進んでいない受刑者」が入所する「LA級」の施設と分類される。岡山刑務所の受刑者数は585人(2015年末現在)。その約3分の1にあたる200人ほどが無期懲役囚で、中川もその一人だ。無期懲役とはいえ仮釈放の可能性があり、受刑者たちがその日を心待ちにしていることは想像に難くない。だが、実際の運用を見ると、無期懲役囚が再び娑婆の地を踏むのは極めて難しい状況になっている。

 近況を語る中川の言葉からも、そうした「終身刑化する無期懲役」の実態が浮かび上がってくる。

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