「韓国へのワクチン供給は後回し」と公言した米国務省 バイデンがQuadから逃げ回る文在寅にお灸

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ワクチン接種、ついに中断へ

 4月30日、政権にとってさらなる悪材料が発生しました。ワクチン不足のため、接種の予約受付を中断せざるをえなくなったのです。

 朝鮮日報は社説「ワクチンの在庫が底をつき接種中断の事態、これが我々の現実だ」(5月1日、韓国語版)で以下のように書きました。

・防疫当局が4月30日、75歳以上の高齢者に接種しているファイザー製ワクチンの追加予約を一時中断するよう、第一線の接種機関に要請した。一言で言えば、ワクチン不足のため第1次接種の予約を当分の間、受けるなということだ。
・政府・与党はワクチンの早期確保の失敗に対し謝罪したり了解を求めるどころか、ワクチン不足に対し憂慮すれば「フェイク・ニュース」と目を怒らして口を塞ぐことにだけ注力してきた。
・今からでも政府はワクチン確保に遅れたことを認め、国民に了解を求めることが道理である。

 5月3日には東亜日報が「韓国の主力ワクチンであるアストラゼネカも不足したため、5月9日以降は第1次接種をほぼ全面的に取りやめる」と報じました。「アストラも不足、9日から第1次接種を中断」(韓国語版)です。

バクチ型接種のツケ

――なぜ、中断という事態に?

鈴置:基本的にはワクチンの数量が不足しているためですが、政府の人気取りにも原因があると見る専門家が多い。

 中央日報の「20万回分残るAZ第1次の分量…当面は今月に100万人2次接種」(5月2日、韓国語版)は高麗大学九老病院のキム・ウジュ教授の以下の談話を引用しました。

・第1次の接種率を上げるために、急場しのぎで第2次分のワクチンを前倒しして使ったために起きた。結局、ワクチンを早く手当てできなかったことが、尾を引いている。

 韓国政府は4月末までに300万人に接種するとの目標を立てていた。これを達成するため、第2次分の輸入のメドが立たないまま、手持ちのワクチンを打ちまくった。ところが、ファイザー製なら第1次接種の3-5週間後に第2次接種すると定められている。在庫不足によって規定通りに第2次接種ができない可能性が出てきたので、慌てて予約をストップした――という構図です。

――そんなバクチのような接種をするものですか?

鈴置:文在寅政権には先を考える余裕はありません。とにかく国民の喜びそうな情報を流し続け、目先の非難から逃れるのに精いっぱいなのです。

Quadとワクチンを取引

――今後、韓国はどうするのでしょうか?

鈴置:5月21日に予定される米韓首脳会談で、バイデン大統領にワクチン供給を直訴する案を検討しているようです。もちろん手ぶらというわけにはいかない。

 そこで、Quadの本体部分である中国包囲網には加わらないものの、コロナや気候変動など非軍事的部分だけは参加して米国の歓心を買う、とのアイデアが浮上しています。

 朝鮮日報が「米国のQuad参加要求に…韓国、片足だけかける」(4月30日、韓国語版)で報じ、他紙も追い始めています。

 ただ、どうなるかは分かりません。米国は韓国の食い逃げ――ワクチンを貰った後、Quadに関しては知らん顔をする――を警戒するでしょう。

 韓国は約束を平気で破ります。バイデン大統領はそれをよく知っている。文在寅政権が踏みにじった日韓慰安婦合意は、副大統領時代の自身が保証人を務めたのですから(「かつて韓国の嘘を暴いたバイデン 『恐中病と不実』を思い出すか」参照)。

「コロナや気候変動で協力する」と文在寅大統領に言われて「じゃあ、ワクチン供給はQuad並みの扱いに格上げしよう」とバイデン大統領が答えるかは疑問です。

 それに中国が「非軍事部門」とはいえ「Quad参加」を許すとは思えません。そんなことで米中双方に顔が立つなら、と韓国方式を採用する国が相次ぐでしょう。緩い形ながら「中国包囲網」が膨れ上がってしまいます。

 中国は「どのような形であれ参加するな」と韓国に圧力をかけながら「中国製ワクチンを供給してやる」と懐柔策を持ち出すかもしれません。すでに持ちかけている可能性もあります。韓国人も、中国製ワクチンは欲しがらないと思いますが。

日本もインドと中韓の間に一線引く

――ワクチンはすっかり外交の武器になりました。

鈴置:中国、米国だけではありません。ワクチンではありませんが、日本だってコロナを外交にしっかりと絡めています。

 感染が急拡大するインドに対し、米政府はワクチン原料などを送りました。英国政府は酸素濃縮機や人工呼吸器を送ることを決めました。

 日本政府も対インド支援を4月30日に発表しました。首相官邸のサイトによると、それを発表した加藤勝信官房長官は以下のように述べています。

・インド側との調整が整えば、酸素濃縮器300台及び人工呼吸器300台を供与する手続を進めることといたしました。これは、我が国として、人道的観点、さらには「自由で開かれたインド太平洋」実現に向けた重要なパートナーであるインドとの友好関係に鑑み、新型コロナ(ウイルス)による被害を受けた方々を支援すべく緊急援助を行うこととしたものであります。

 供与の理由として「人道的な観点」だけではなしに「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の仲間である」ことをはっきり挙げたのです。日本は疾病協力の面でもインドと、中国・韓国との間に明確な一線を引いたのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮取材班編集

2021年5月6日掲載

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