ゴミ屋敷に閉じ込められた20匹の猫を救え――東京・武蔵村山で勃発した市民vs行政の“30日戦争”

国内 社会 2021年4月25日掲載

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 電気ガスが止まった一軒家で、独り暮らしをしていたおばあさんが亡くなった。家に取り残されたのは、不妊・去勢手術をしていない21匹の猫たち。地元ボランティアの女性は行政に引き取りたいと願い出たが、役人たちは“お役所仕事”で動こうとしなかった。ゴミ屋敷の中で徐々に衰弱していく猫たち。“助けてください!”。女性がSOSを発信すると、仲間の動物愛護団体が次々と応援に駆けつけた。閉じ込められて3週間。このままでは猫たちは持たない……。タイムリミットが迫る中、彼らが取った行動とは――。

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3、4年前から電気、ガスは止まっていた

 都心から車で1時間半。東京都武蔵村山市の閑静な住宅街の一角に構える、2階建ての一軒家が救出劇の舞台となった場所である。今は平穏を取り戻したが、この1ヶ月間、深夜まで不安げに外から家を見守る人影が絶えなかったという。

 近隣に住む女性が振り返る。

「動物愛護関係のボランティアの方々が、毎日のように入れ替わり立ち代わり見えられてね。市役所は何もしてくれないって口々に言うんです。窓からはおばあちゃんが飼っていた猫たちの姿が見えるんですが、手出しできないって、もどかしそうに……」

 おばあさんがこの家で暮らし始めたのは、17、8年前に遡るという。

「最初は息子さんがいらしたんですが、しばらくして出て行かれて、おばあさんが独りで暮らすようになった。気難しい方で、ご近所とのトラブルも絶えず、完全に孤立していました。庭には木々が鬱蒼と生い茂ってジャングルみたいな状態だったんですが、去年、ようやく市役所が動いて伐採できました。ただ、猫の問題は最後まで解決しなかった。最初は1、2匹だったと思うんですが、不妊・去勢手術しないからどんどん増えちゃって。いわゆる“多頭飼育崩壊”が起きていたのです」

 多頭飼育崩壊とは、自宅で不妊治療手術を行わないまま動物を飼い続け、異常繁殖を繰り返してしまう状態をいう。餌代も膨大にかかるため、経済的にも飼い主を圧迫し、生活が立ち行かなくなるケースも多い。

「おばあさんは猫にすべてを捧げていました。近所では私だけがおばあさんと会話できたんですが、そんな私ですら、猫について意見しようものなら、無視されましたよ。電気・ガスは3、4年くらい前から止まっているんですが、猫の餌だけはいつもコンビニに腰を曲げて買いに出かけていらっしゃいました。そんな“猫屋敷”でしたから、家の前を通り過ぎるだけで異臭がすごいなんてものじゃない。おばあさん自身も浮浪者のような匂いがしていました」

玄関先で倒れていたおばあさん

 そんなおばあさんの暮らしに異変が起きたのは、3月中旬のことだった。いつも女性は朝9時頃、自宅の庭の手入れをしている際、2階の窓を開けるおばあさんと挨拶を交わすのが日課になっていた。だが、

「3日連続で窓が開かないんです。これはおかしいって思って市役所に連絡を入れました。ちょうどその時、たまたま市役所の方たちが訪問する予定が入っており、彼らが玄関先で倒れているおばあさんを発見しました」

 3月16日のことである。既に死亡して数日が経っており、東大和警察によって遺体は運ばれた。そして、約20匹の猫が家の中に取り残されることになった。

 ここから猫を救おうとする市民たちの戦いが始まるのである。

 同市在住で、市の登録ボランティアとして、地域の野良猫などの見回りをしてきた山口さやかさんは、近所の人から連絡を受け、すぐにおばあさんの死を知った。

「市から依頼され、何度もおばあさんを訪ねていたので、この家の多頭飼育崩壊について知っていました。最後まで会えずじまいでしたが……。おばあさんが亡くなったと聞いて、猫たちはどうなるんだろうと心配になりました」

 遺体が発見された二日後、市の環境課に行って担当者に話を聞くと、「息子とは連絡が取れている。息子には餌と水を与えるように頼んでおいたから大丈夫」と説明を受けたという。

「でも、心配だから仲間と協力して、毎日のように見に行っていたんです。その度、ご近所の方にも様子を聞いて、本当に息子さんがいらしているのか確認した。誰も息子を見ていないというんですが、門扉の様子などから、1週目は何度か来ている様子が確認できました。どうやら夜こっそり入っていたようなんです。けれど、本当に餌を与えているかわからない。だから、詳しい状況を確認しようと市に何度も電話を入れたんです。けれど、市はそんな私を邪険に扱うようになり、『担当者が席を外している』などと言われ、相手にされなくなってしまった」

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