ゴミ屋敷に閉じ込められた20匹の猫を救え――東京・武蔵村山で勃発した市民vs行政の“30日戦争”

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49日経たないと連絡できない

 2週目になると、明らかに息子が通っていない様子が確認された。夜は電気もつかない無人の家で、20匹もの猫が放置されているのだ。近隣住民から「今まで聞いたことのないような叫び声が聞こえてきた」という報告も受けた。いったいどうなっているのだろうか。山口さんは3月末に、市役所に再び電話をかけたが、そこで担当者から言われた一言に絶望したという。

「息子さんから連絡を受けていないとあっけらかんと言うんです。だったら、私の連絡先を息子さんに伝えてもらい、私に保護させてほしいと掛け合ったんですが、担当者は『常識的に考えて49日経たないとこちらから連絡できません』。私が別のルートで息子さんに連絡を取ってみてもいいか、と確認すると、『勝手な行動を取らないでください。この件をあまり口外して騒がないように』。ああ、もう市はあてにならないと思い、ここから様々な方々にSOSを発信し始めたのです」

 地元市議にも相談しつつ、知り合いの動物愛護団体に連絡を入れた。武蔵村山市の隣、福生市で活動する「福生ネコサポ」の伊藤綾子さん(47)もその一人だ。

「大変だと思いましたが、私たちは仕事の都合ですぐに動くことができませんでした。だから、他の団体さんに協力を求めたのです。救出も大事ですが、保護された後の預かり先のことも考えました」

動き出した近隣の動物愛護グループ

「福生ネコサポ」からの連絡で、立川市で活動する「立川地域猫の会」代表の浜屋正次さんも事態が深刻化していることを知った。

「最初の連絡は、もし助け出せた時に、1匹でも2匹でも預かってもらえないか、という話でした。どうなっているのか私も知りたくて現場に一度入り、地元市議らのルートを使って市役所に聞いてもらったんです。すると、市の担当者は『まもなく他団体が引き取りに入るから大丈夫』と話したというのです。それを山口さんにも伝え、ひとまず静観することにしました」

 だが、その情報はデマであった。3週目に入っても、現場に通い続ける山口さんから変化がないと報告を受けた浜屋さんは、4月6日に現場に入った。

「家の外から見守っているだけでは、中がどうなっているのか把握するには限界があります。だから、私はご近所の方にも立ち会っていただき、塀を乗り越え、庭に入りました。そして、窓に近づき中の様子を窺った。ガラスが汚くてはっきりとは見えませんでしたが、水が入ったいくつかの風呂桶を確認できてホッとはしました。しかし、猫たちは閉じ込められた空間で明らかに衰弱していました。三毛猫の上に茶白の猫が乗っかり、交尾しているように見える様子も確認できた。糞尿だらけの不衛生な環境を、いつまでも放置しておくわけにはいきません。まさに動物愛護法に反する状態が放置されていました」

警察にも連絡を入れたが……

 浜屋さんのほうでも市の環境課に何度も電話で保護に動くよう求めたが、担当者は「猫の所有権は息子さんにある」「息子の許可がなく、市が立ち入る権限がない」の一点張りで埒があかなかったという。動物愛護法を所管する東京都動物愛護相談センター(動相センター)にも電話したが、同様の対応だった。

 だが、浜屋さんの訴えが奏功してか、ようやく市と動相センターが動き出すという情報が入ってきた。4月13日に息子立ち会いのもと、動相センターが保護に入るという。だが、この時点ですでに3週間が経過している。さらに1週間、行政は“待て”というのである。

 ちょうどその頃、現場とは離れた都心で、別の動きをしている動物愛護団体があった。女優の杉本彩氏が代表を務める「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」である。山口さんはEvaとはつながりがなかったが、3月に杉並区・高円寺のコインパーキングに駐車してあった車に2匹の犬が閉じ込められていた事件でEvaが動いて解決したことを知っていたので、3月下旬にはメールで相談していた。

 Eva事務局長の松井久美子さんが振り返る。

「私たちも情報提供をいただいてから、ずっと情報収拾に努めてきました。行政が動かないなら、頼みの綱は警察しかないと考えた。そこで、東大和警察署に電話して、『明らかな動物愛護法違反の状態にあるのだから、刑事事件として警察の権限で入ってほしい』と訴えたのです」

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