ゴミ屋敷に閉じ込められた20匹の猫を救え――東京・武蔵村山で勃発した市民vs行政の“30日戦争”

国内 社会

2021年04月25日

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1階で三毛猫が死んでいた

 4月8日の午前中に松井さんは現場に入り、状況を把握した上で、もう一度警察に電話をかけたが、電話に出た刑事は『刑事事件としては扱えない』『市と動相センターに連絡するように』と繰り返すばかりであった。同日、夜10時過ぎに、松井さんと入れ代わりに現場に入ったのが、「高円寺ニャンダラーズ」の佐藤洋平さんだ。佐藤さんが振り返る。

「これだけ必死になって、市民たちが動いても行政は動こうとしないのです。ならば、もう法を破ってでも猫たちを救い出すしかないと考えました」

 深夜、佐藤さんは塀を乗り越え敷地内の庭に入った。すると、おぞましい光景が目に飛び込んできた。1階で三毛猫が死んでいたのだ。佐藤さんが続ける。

「木をよじ登り、2階の窓からも覗き込み、もう1匹いつ死んでもおかしくないような、ぐったりしているサバ柄の猫を発見しました。すべての窓や扉は施錠されていましたが、2階に一箇所少しいじれば入れる窓があった。この日はこれで引き上げましたが、Evaの松井さんとも相談し、この窓から強行突破しすべて救い出すしかない、と覚悟を決めました」

もうこれ以上待てない

 翌9日。地元市議も本格的に動き出して、市の環境課に早急に対応するよう求めた。だが、市の職員は午後に現場を視察しに訪れたものの、何もせずに帰ってしまったという。

 夜になると、ニャンダラーズの佐藤さんとEvaの松井さんは待ち合わせ、現場へと向かった。車には水、餌、捕獲器、ケージなどを積み、準備万端だった。もう最終手段しか残されていなかった。これまでは庭への立ち入りだけであったが、猫たちを救出するためには家の中に入らなければならない。完全な不法侵入となり、罪に問われる可能性もあったが、このまま衰弱していく猫たちを見殺しにするわけにはいかなかった。

 だが、そう決意した彼らが夜11時半頃、現場に到着すると、信じがたい光景が目に飛び込んできた。

 東京都動物愛護相談センター、武蔵村山市環境課、東大和警察署ら十数名が現場に集結し、捕獲に入っていたのだ。松井さんが代わって説明する。

「びっくりしたなんてもんじゃないです。あれだけ3週間にわたって、市民たちが入れ替わり立ち代り対処をお願いしていたのに、深夜になって急に動き出しんですから。ただ、後になって理由がわかりました。警察が“圧力”にビビって動き出したのです」

 圧力とは何か。

「実は私のほうで、もう市民レベルの訴えでは何も動かないと考え、2、3日前にある有力国会議員の事務所に相談していました。そこの秘書の方が一生懸命動いてくれ、東大和警察署に何度も電話を入れていたのです。『このまま放置したら、国会で追及するぞ!』くらいの勢いで。それはヤバいと考えた東大和警察署が息子と連絡を急遽取り、立ち会ってもらうよう掛け合い、緊急保護することになったのだと思います」

常軌を逸した深夜の捕獲作戦

 確かに、猫の捕獲のため、深夜に警察と行政が緊急出動するなど異例の対応であろう。松井さんらが撮影した現場写真は物々しい。数台のパトカーに制服の警察官、黄色い規制線のテープ、家を出入りする防護服姿の動相センター職員。おまけに、猫を運び出す際、写真に写らないよう、ブルーシートを広げていた様子まで写っている。周囲には大勢の野次馬も集結し、殺人事件の現場さながらの様相だ。

「私たちがいない時間帯にこっそり保護して、騒ぎを封じてしまおうという考えもあったのでは。いずれにしろ、ようやく事態が動き出し、私たちもこれ以上、法を犯さず済んだのでホッとしました」(Evaの松井さん)

 そのまま警察・行政合同の捕獲作戦を家の外から見守っていた松井さんたち。だが、やがて黙って見ていられなくなったという。高円寺ニャンダラーズの佐藤さんは憤る。

「ドタバタと『いたぞー! 捕まえろ!』って大捕物をしているんですよ。猫たちはみんな衰弱しきっているのに、あんな捕まえ方したらショック死しかねません。動相センターの職員に『私たちは猫たちの取り扱いに慣れているので、協力させてもらえませんか』とお願いしました。しかし、彼らはまったく相手にしなかったばかりか、邪魔者扱いです。引き上げる時も、『もしかしたら、隠れちゃった猫が取り残されている可能性もあるので、確認させてほしい。捕獲器だけでも置いていかせてくれないか』とお願いしましたがダメ。『せめて新鮮な餌と水を置かせてもらえないか』と食い下がっても、『大丈夫です』と取り合ってくれないのです」

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