“犯人はアイツだ” ネット上で誹謗中傷が飛び交う三鷹「地域猫虐待死事件」の真相

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告発者が記した猟奇的な動物虐待の描写

 事件から数日後、事態は大きく動き出す。古くからこの場所で地域猫の世話をしてきたT会という動物愛護グループが、動物虐待事件としてタヌキちゃんの死をSNSなどで発信し出したのである。T会のブログに書かれた遺体の状況は、凄惨極まるものだった。

〈犯人は、タヌちゃんをいつもいる所で捕まえて、そこでいきなり顔面を鉄の棒か何かで殴ったのか、鉄の柵に顔面を叩きつけたのかして、ぐったりさせてから、下の土手に投げたのか。血しぶきが散乱していたそう。そして、今度はタヌちゃんを後ろに見える鉄の柵の向こうに放り投げるか、自分でタヌちゃんを捕まえ掴んで下に行き、土手で死ぬまで更なる暴行を加えたよう〉

 おどろおどろしい記述はさらにこう続く。

〈下の土手には血の飛び散りがもっとあったと。人に見えにくい場所を選び、明け方という時間を選び、抵抗しない猫を選び、そこで常軌を逸する犯行に及びました。顔面を集中的に何十回も硬い何かで殴打されたようで、鼻も口も歯もどこにあるか分からずグチャグチャになっていたそうです……。(中略)顔面の骨が砕けて変形していく様を喜んで眺めていたのか………そして、凶器で身体も叩きつけ、死んだ後も執拗に殴り続けていたのではないかとお巡りさんの話。お腹も踏まれたようで、腸も飛び出し、身体がボロ雑巾のように………〉

拡散に動いた芸能人たち

 あたかも、犯行現場を目撃したかのような書きっぷりだが、実際には目撃証言も凶器として特定されたものもない。T会のメンバーは遺体も見ておらず、後日、第一発見者であるボランティアの女性と駐在の警官から、遺体の状況を聞き取ったとされる内容だった。なお、このブログはその後、修正が加えられ、現在は過激な表現が抑えられている。

 だが、この後、このブログの内容が「事実」として、社会に拡散していくのである。真っ先に動き出したのが、動物愛護活動家として有名な杉本彩氏だった。杉本氏が代表を務める「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」は、T会のブログの内容を転載し、「不審者情報等お持ちの方は三鷹警察へ」と呼びかけ、「三鷹警察に対し容疑者逮捕に至るまで綿密な捜査をしてほしい旨の要望書を提出します」と言及した。

 その後、二階堂ふみ、ダレノガレ明美、小松みゆきなどの芸能人も続いた。著名な芸能人が一斉に取り上げたことで、一部ネットニュースも報じ始め、「タヌキちゃん事件」は全国区の“猟奇的動物虐待事件”として知られるようになったのである。

地元でささやかれ始めた「自然死説」、「交通事故死説」

 ここまでが事件発生当時、このニュースに触れた人々の記憶であろう。だがこの後、「タヌキちゃん事件」は“ネット空間”の中で異常な展開を遂げ、地域社会は混乱していくのである。

 まず地元で囁かれ始めたのが、「本当に虐待死だったか」というウワサであった。ある地元住民が語る。

「どうやらT会のブログは、かなり大げさに書かれていたようなのです。遺体が血だるまになっていたという事実はなかった。腸が飛び出ていたというのも怪しい。だから、本当は交通事故死だったとか、自然死だったという噂まで流れ始めたのです」

 そのような話がSNSで広まり出すと、T会が反論を始めた。その矛先は三鷹署、そして、第一発見者に呼ばれて真っ先に現場に臨場した交番の警官に向けられていった。

「彼らに言わせると、駐在の警官は当初、『虐殺死に違いない』と言っていたのに、途中から『現場の状況はそこまでじゃなかった。自然死の可能性もある』と証言を覆したというのです。それにT会は烈火のごとく怒り出した。遺体をすぐに焼却したのは、三鷹署が身内の不祥事を隠したかったからだと言い始め、しまいには、現在は消去されていますが、警官の家族が怪しいという根拠のないツイートまでした」(同・地元住民)

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