JR「乗車拒否問題」 車イス芸人・ホーキング青山はこう見た

国内 社会 2021年4月12日掲載

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 コラムニストの伊是名夏子さんのブログが話題になり、議論を呼んでいる。

 伊是名さんは車椅子で移動するのが日常だ。

 著書『ママは身長100センチ』(ハフポストブックス・2019年刊)の紹介には次のようなプロフィールが掲載されている。

「先天性の骨疾患『骨形成不全症』で骨の弱い障害があるため電動車椅子を使用。身長100cm、体重20kgとコンパクト。右耳が聞こえない。ハイリスクな妊娠出産を乗り越え、5歳と3歳の子育てを総勢10人のヘルパーに支えられながらこなす」

“どこまで障害者への対応をすべきか”についての議論

 注目を集めたのは、「JRで車いすは乗車拒否されました」(4月4日)と題されたブログ。細かい経緯についてはブログやその後の報道で伝えられているのでここでは省略する。旅行に出かけた際、「JRに乗車拒否をされた」ことを訴えた内容である。

 議論の対象となっているポイントの一つは、どこまで障害者への対応をすべきか、という点だろう。

 伊是名さんは「障害者差別解消法」などをもとに、車椅子の人たちができる限り自由にあらゆる駅を使えるような状況を望んでいる。これに対して、「それはいくらなんでも無理」という意見もネット上では多く見られる。また、伊是名さんがことの経緯を記録して、公開していること自体への批判もあるようだ。

 こうした問題が議論されることは珍しくない。

 2017年6月の「バニラ・エア」を巡る一件は、今回の件とよく似たケースである。

 下半身不随で車椅子で生活する男性が、格安航空会社バニラ・エアを利用した際に、会社側の対応に不満を抱き、自身のブログで一部始終を公開。さらに朝日新聞などが報じたことで一気に全国ニュースとなった。

 この時も男性の行動について賛否が分かれ、「勝手なことを言うな」「事前に連絡をせずに当日通達するなんてクレーマーだ」「そもそも格安航空はサービスを削って安くしているのだから贅沢を言うな」等の批判的なメッセージが本人のもとに寄せられたという。

 いずれのケースでも、法律的に見ると、障害者差別解消法にある「合理的配慮の範囲内で」対応すべし、という際の「合理的配慮」の解釈が一つの争点になるようだ。

 人手の無い駅や、格安航空会社がどのくらい障害者に対応することが「合理的」と言えるか。これは立場によって意見はさまざまだろう。

 もちろん、あらゆる場所がバリアフリーになることは素晴らしいことだ。反対する人はいない。しかし、それには当然コストがかかる。そのコストは交通機関の利用者や、社会全体が負担することになる。その負担を社会はどこまで許容するのか。

社会的コストについての考察

 この問題について、長く考え、執筆してきたのが車イス芸人のホーキング青山さんだ。著書『考える障害者』には、何度もこの社会的コストについての考察が述べられている。

「障害者の社会進出、あるいは障害者が普通に暮らすということを考えた場合、常にこの問題にぶつかってしまう。

 主に発達障害者が企業に就職するにあたって、『ジョブコーチ』をつけるという制度がある。その障害を抱える本人がどのようにして働けば良いかを障害者本人や企業側に進言するのだが、障害者が働くためにはこういう『合理的配慮』が必要になる。

 しかしこれにもまた、相応のお金や手間暇がかかるわけである」

「話をバニラ・エア騒動に戻すが、『どうすべきか』といえば間違いなく事前連絡なしで車イスでいきなり来られても対応できるようにすることがベストなのは当然だし、『そうしていきなさい』というのが『障害者差別解消法』の定める『合理的配慮』なわけだが、現実的には、まして今回のバニラ・エアのようなLCCでは対応はかなり難しいと思うのだ」(『考える障害者』より)

 ホーキングさんは、これまで異議を申し立てて闘い、あるいは耐えてきた先人たちがいることで、少しずつ事態が改善されてきたのも事実だ、という。今回の件にせよバニラ・エアの件にせよ、現場から生の声が上がり、論争が起きること自体、意味があるという見方もできるだろう。

駅員さんの一言

 ただ、ホーキングさんはこうも述べている。

「なかば実力行使のようなやり方だと、障害者への理解どころか反発を招かないかとも思うのだ。そしてそれが、はたして他の障害者のためにもなるのか? といえば絶対ならないと思う」

 そして、こんなエピソードを披露している。

「以前、電車に乗ったときのこと。初めて降りる駅に着いたとたん、ものすごく駅員さんの感じが悪かった。最初は困惑したし、気分も良いもんじゃないが、余計なことは言わずに、お礼だけ伝えてその場を去った。

 その駅は、そのあと仕事で毎週使わなければならなかったので、その人がいるとそれだけで憂鬱だった」

 出会って3カ月ほど経ったころ、いつものようにホームでその駅員さんと電車が来るのを待っていたら、ホーキングさんの顔をマジマジと見ながらこう言ったという。

「あなたは明るいね。いつもかけてくれるお礼の言葉を聞いてれば声でわかる。前にこの駅に来てた車イスの人はまあ横柄でこっちが手を貸そうが何をしようが何も言わない。それは別に仕事だから良いけど、ある時世間話でもしてみようかと思って『こちらに来られるのは仕事か何かですか』って聞いたら『この駅に車イスで来るのは仕事じゃなきゃダメなのか!?』っていきなり凄まれちゃって。あまりにも感じが悪くて正直嫌いでした。でその後今度はあなたが来られてまたおんなじような人だったら嫌だな、とずっと思ってたんですけど、いい人で良かった」

理解があってこそ「バリアフリー化」が進む

 改めてホーキングさんに、今回の件についてコメントを求めてみた。

「本来なら健常者と同様に、連絡しないでもその場で普通に対応してもらえることがベストであることは間違いないし、それでこそ真のバリアフリーなわけです。

 現状はそこまでいっておらず、そのことを問題提起することは大事だと思います。

 過去には今以上に乗車拒否はあったし、私も経験したことがあります。

 でも、この20年ほどで一気にバリアフリー化が進み、今は少なくとも『事前に連絡』さえしておけば、乗車拒否されることはなくなっています。

 もちろんこれでいいわけではなく、さらにバリアフリー化を進めていくのが理想なのですが、ただ、今回の関係者の方のコメントを見ても、少なくとも『乗せ(たく)ない』とは言っていないわけで、むしろ『事前にご連絡いただければお待たせすることなく対応できる』とまで言ってくれているんだから、正直対立するのはあまり良いことではないように思いました。

 多くの障害者が障害を理由に、本来人が当然の権利として行使できることを侵害あるいは剥奪された経験があること、その悔しさや怒りを抱えて生きてきたという現実があります。それを知ってほしい、わかってほしい……こんな思いをしている障害者が多いことは同じ立場なのでよくわかります。

 一方で、『バリアフリー』といっても、あくまで理解があってこそ進むものなわけで、怒りをベースに進めようとしたら、反発を招いてしまって、結局誰も得をしないことになってしまうんじゃないかなあと思いました」

デイリー新潮編集部