「日本製ワクチン」実用化は来年以降に ロシア「スプートニクV」は救世主となるか

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 世界における新型コロナウイルスワクチン接種が4億回を超え(3月18日時点)、その接種のスピードも上がっている。直近の1億回分の接種に要した日数は11日となり、最初の1億回分に要した日数の6分の1に短縮された。

 人口当たりの接種率が最も高い国の一つであるイスラエルでは、今年4月にもワクチン接種による集団免疫が形成され、コロナ禍以前の生活に戻れるとの期待が高まっている。

 非常に有効性が高いワクチンが開発されたことで楽観論が足元で広がりつつあるが、南アフリカ型やブラジル型などの新型コロナウイルスの変異種の出現が「水を差す」という展開になりつつある。新型コロナウイルスのゲノム解析を手がける英国の専門家チームは3月15日、「感染力の強い変異種に対応するため、定期的にブースター(追加免疫)のワクチン接種が必要になる」との認識を示した。

 新型コロナウイルスは2週間毎に変異していることから、ワクチン接種によって生じる抗体は永遠には続かない。新型コロナウイルスは、一度ワクチンを接種すれば根絶できる「はしか」のようなものではなく、毎年世界で何百万人が感染するインフルエンザのようなものになるとの見方が強まっている。

 世界保健機関(WHO)も3月初めに「ワクチン接種が開始され、新型コロナウイルスの危険性を減らしていくことはできるだろうが、年内の終息を考えるのはあまりにも非現実的な期待だ」との見解を明らかにしている。

 日本でも現在、ファイザー製のワクチン接種が開始され、今年5月には英アストラゼネカ製ワクチンや米モデルナ製ワクチンも承認される見通しである。日本に比べ新型コロナウイルスの被害が甚大である世界では「感染拡大を封じ込めるため猛烈なスピードでワクチン接種を行う」戦いが繰り広げられているが、今後は長期戦に対する構えも必要となるだろう。その際必要なのは自国でのワクチン開発能力の確保である。

 日本製ワクチンの印象が薄い昨今だが、森下竜一大阪大学教授が率いる大阪大学発ベンチャー企業アンジェスは昨年3月から新型コロナウイルスのワクチン開発を開始した。開始時期はファイザーやモデルナなどと並んで世界で最も早かった。開発するワクチンのタイプはDNAワクチン。遺伝子治療薬の開発に成功しているアンジェスはその経験を生かして世界初となるDNAワクチン開発に取り組むことを決定したのだが、その有効性は最も高いとされているメッセンジャーRNAタイプのワクチンに比べて若干劣るものの、安定性に優れ保管が容易であることから、大きな期待が集まっていた。

ワクチンの海外依存

 アンジェスは昨年6月に健康な人に対して安全性を確かめる第一段階の治験を始め、数百人規模の治験で済む「条件付き早期承認」を取得し、今年春から夏頃を目途に100万人規模のワクチンを国内に供給する予定だった。しかし医薬品医療機器総合機構(PMDA)が、昨年9月に公表した新型コロナワクチンの評価方針で数万人規模の治験を求めたことから、アンジェス製ワクチンの早期実用化は暗礁に乗り上げてしまった。アンジェスは現在、国内で安全性と有効性を評価する500人規模の治験を進めているが、感染者数が少ない日本で数万人単位の治験を進めるのは困難であり、海外での治験が不可欠となる。

 世界では大国が威信をかけて前例のないスピードで開発競争を繰り広げている中で、「日本だけが時代錯誤のワクチン行政を進めている」との批判の高まりからだろうか、政府は「アジアに治験のネットワークを構築し、開発費用も一部負担する」方針を明らかにした(3月10日付日本経済新聞)が、アンジェスが今年夏から海外での治験を始めたとしても、治験終了は来年以降になることは確実である(3月21日付日本経済新聞)。

 このことからわかるのは、来年の冬も日本は接種するワクチンを海外に依存することになるということである。ワクチン確保を万全にするため供給源の多様化が不可欠である。

 日本ではあまり知られていないが、現在世界で2番目に多くの国で承認されているワクチンはロシアの「スプートニクV」である。

 スプートニクVは昨年8月ロシア政府が世界で初めて承認した新型コロナウイルスワクチンだが、第3段階の治験を済ませていなかったことや「国内での接種希望者が少ない」ことなどを理由に「二流扱い」されてきた。しかし、今年2月上旬発売の英医学誌「ランセット」で「スプートニクVの有効性が91.6%とメッセンジャーRNAタイプと遜色のない有効性が確認される」との論文が掲載されると、その評価はうなぎ登りにあがっている。

 ロシア政府は「年内に7億人にスプートニクVを提供するため、インドや中国、韓国での生産を検討している」としており、ワクチン確保に遅れをとっているEU域内でもスプートニクVの生産が検討されている(3月17日付ロイター)

 しかし、この動きを好ましく思っていないのは米国である。ロシアメディアによれば「米国政府はスプートニクVに関するネガティブキャンペーンを実施しており、ブラジルのスプートニクV購入を阻止した」という。米国側も「ロシア諜報機関が米国内で使用されているワクチンに関する偽情報を拡散している」と批判するなど非難合戦となっている。

 日本でもガルーシン駐日大使がスプートニクVをアピールしているが、ロシア側は「北方領土問題が障害となっている」との見方をしているようだ。

 スプートニクVの日本での使用については現段階ではハードルが高いと言わざるを得ないが、かつて日本国内でポリオが大流行した際に旧ソ連からワクチンを緊急輸入し、ポリオ患者数を激減させたというサクセスストーリーがある。ワクチン開発に遅れをとった日本は、ロシア製ワクチンの使用を検討せざるを得ないのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮取材班編集

2021年3月30日掲載

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