11年ぶりキリンが首位 大株主の英ファンドとケンカしても貫いた「経営戦略」とは

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売れ行き好調の「一番搾り糖質ゼロ」

 国内ビールメーカー各社が「コロナ後」の新基軸を打ち立てようとしている。キーワードは「健康」「家飲み」そして「分散・自律」だ。

 サントリービールは4月13日、糖質ゼロのビール「パーフェクトサントリービール」を発売する。狙うのは新型コロナ禍で健康志向を強めている層と、「家飲み」を日常化させている層だ。同社は、いずれ家庭向けビール系市場の半分以上を糖質ゼロやオフが占めるだろうと予想を立てている。ベテラン経済記者が、現在の「ビール事情」を説明する。

「健康意識や家飲みニーズを捉えようと急ぐサントリーの視界には、昨年10月、国内で初めて糖質ゼロのビール『一番搾り糖質ゼロ』を発売したキリンビールの後ろ姿があります。糖質ゼロやオフの商品は既に市場に出回っていますが、いずれも麦芽量が少ない発泡酒や第3のビール(新ジャンル)で、麦芽量が多い本物のビールで糖質ゼロを実現するには技術的な壁が高かったのです」

 キリンの「一番搾り糖質ゼロ」は発売から半年がたっても売れゆきは好調に推移しており、年間300万ケース売れればヒットとされる新商品において、今年度430万ケースの販売を見込んでいる。

「国内のビールメーカーは昨年、飲食店休業に伴うビール販売減に軒並み苦しめられましたが、そんな中で業績の落ち込みを最小限に抑え、糖質ゼロビールの市場投下で存在感を高めたのがキリンでした。

 今年1月、国内ビール大手4社(アサヒビール、キリンビール、サントリービール、サッポロビール)の20年ビール系飲料の販売実績が出そろったところで、キリンが市場シェアでアサヒを上回り11年ぶりにトップに立ったことが明らかになりました」

 アサヒは20年から販売数量を非開示にしていますが、4社の合計販売数量(19年比9%減の約3億4800万ケース)から推計するとアサヒのシェアは35%、キリンが37%で、前年(アサヒ37%、キリン35%)から首位が入れ替わったのです」

うちは株式会社スーパードライ

 アサヒとキリンの首位交代劇には、消費者の生活様式の変化と「日本型経営」とも言うべきキリンの経営スタイルの妙味が潜んでいる。以下、いくつかのデータを確認したい。

 まずは20年の販売数量の内訳。ビールが41%、発泡酒13%、第3のビールが46%と、第3のビールが初めてビールを上回った。家飲み人口の増加が割安感のある第3のビールの販売を押し上げた格好だ。

 次にアサヒとキリンの販売数量の構成比だが、

「アサヒが販売数量を公開していた19年の構成比をみると、ビール類のうちスーパードライなどのビールが62%を占め、発泡酒(スタイルフリーなど)や第3のビール(クリアアサヒなど)は38%に過ぎません。売上金額ベースだとビールは7割を超え、アサヒ社員らが『うちは株式会社スーパードライです』と自虐ネタを飛ばすほど、アサヒはスーパードライに寄りかかった一本足打法の経営なのです。

 一方のキリンはビール類のうちビールは33%に抑えられ、発泡酒(23%)と第3のビール(44%)を合わせて、ビール以外が67%に及びます。キリンも20年はアサヒと同じように飲食店の時短営業や営業自粛に苦しめられましたが、そもそもビールの割合は33%しかないため、アサヒに比べるとダメージは小さかった。他方、ビール並に投資をしてきた第3のビール・本麒麟がコロナ禍の家飲みニーズにのって前年比3割増(金額ベース)という快進撃を見せ、ビールの不振を補う結果となりました」

 投資を1ヵ所に集中させず、分散させることで全体を最適化させていく。これが最後のキーワード「分散・自律」だ。実はコロナが日本に襲来する直前の20年1月、アサヒとキリンはそれぞれ大きな決断をしていた。

「当時はまだ東京五輪も20年の夏に開催される予定で、五輪ゴールドパートナーであるアサヒは、塩澤賢一社長(当時)が、『今年はビールに注力する』と事業方針説明会で宣言しました。五輪開催の盛り上がりによって、国民が例年になく大量にビールを飲むであろうと踏み、スーパードライに経営資源を集中投下する“選択と集中”の道を採ったのです。

 キリンはこのとき、創業以来経験したことのない株主からの突き上げを食らっていました。キリンホールディングスの株式を2%保有する英投資ファンド、インディペンデント・フランチャイズ・パートナーズ(IFP)がキリンに対し『ビール事業への集中』を求めたのです」

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