バイデンの最後通牒を蹴り飛ばした文在寅 いずれ米中双方から“タコ殴り”に

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韓国民に直接「踏み絵」

――ブリンケン長官はなぜ、公開の席で韓国を叱りつけたのでしょうか。

鈴置:文在寅政権にいくら「中朝にゴマをするのをやめ、米国側に戻れ」と言ってもらちがあかない。翌18日の2+2(外務・防衛担当閣僚会議)の後に発表された米韓共同声明にも、中国や北朝鮮への非難は盛り込まれませんでした。韓国が反対したからです。

 そこでブリンケン長官は韓国メディアの前で「人権弾圧を批判しろ」と語ることで、韓国人に直接「米国をとるのか、中国か」と迫ったのです。

バイデンも使った「直接話法」

――米国も強引な手を使いますね。

鈴置:韓国に対しては特別です。韓国は会談内容を自分に都合よく発表するからです。会談の場でいくら米国が要求しても、韓国政府は「米国から要求はまったくなかった」などと発表します。

 バイデン(Joe Biden)大統領が副大統領だった時に同じ手を使いました。2013年12月6日、朴槿恵(パク・クネ)大統領と会談した際の冒頭発言で「米国の反対側(中国)に賭けるな」と語ったのです(「かつて韓国の嘘を暴いたバイデン 『恐中病と不実』を思い出すか」参照)。

 日米韓の軍事協力を求める米国に対し、朴槿恵政権は「慰安婦など歴史問題で日本の態度が悪い」ことを掲げ拒絶していた。そこでバイデン氏は「日本の問題ではなく、本当は中国が怖いからだろ」と図星を突いたのです。

 韓国記者の前で指摘することで「米国はすべてお見通し。つまらぬ言い訳はもうするな」と韓国民に直接伝えようとしたわけです。

 もっともこの発言は短く、表現もやや抽象的だったので韓国政府は当初、「通訳のミス」と言い張りました。それが功を奏さないと次には「バイデンは失言王」などと宣伝、反米感情を掻き立て、国民の目を米国の怒りからそらすのに成功しました。

 今回はさすがに韓国政府も誤魔化せませんでした。ブリンケン長官がくどいほど「民主主義の側に戻れ」と語ったからです。どんなに勘の鈍い記者でも韓国批判と気づきます。

元慰安婦は国務長官に抱きつけず

――韓国メディアはブリンケン発言を隠さず報じたのですか?

鈴置:3月12日の国務省の定例会見では「慰安婦問題を蒸し返すな」との趣旨の報道官の発言を、ほぼすべての韓国メディアが無視するか、歪曲して報じました(「元慰安婦は今度は国務長官に抱きつくのか 米国の怒りを報じない韓国メディアの歪曲報道」参照)。

 3月17日のブリンケン発言では韓国批判部分はきちんと引用しました。ただ、「アトランタ事件への哀悼」部分はほとんどの媒体が無視しました。

 3月16日、米ジョージア州アトランタで起きた連続銃撃事件で、マッサージ・パーラーで働く女性が多数、殺されたのですが、うち4人が韓国系でした。

 人種犯罪の可能性が濃いと見られたこともあったからでしょう、ブリンケン国務長官は冒頭発言で深い哀悼の意を表しました。普通だったら韓国メディアは「被害国民に米高官が謝罪した」と大々的に報じるはずですが……。

――「アトランタ事件への哀悼」が韓国で報じられなかったのは?

鈴置:殺されたのがマッサージ・パーラーで働く人だったためと思われます。韓国人は風俗産業の従事者を激しく差別します。遠い国で働く同胞がひどい目に会っても、職業故に同情しないのです。彼らを利用できる時は別ですが。

 なお唐突ですが、「元慰安婦は今度は国務長官に抱きつくのか 米国の怒りを報じない韓国メディアの歪曲報道」で言及した、元慰安婦のブリンケン長官との面会は実現しませんでした。

 その結果、「D・トランプ(Donald Trump)大統領に抱きつく元慰安婦」シーンは、ブリンケン長官では再現できませんでした。

仲間外れに転落

――米韓亀裂を韓国紙はどう報じましたか。

鈴置:もちろん、保守系紙は「米国離れ」に警告を発しました。文在寅政権の「離米従中」を批判した中央日報の社説「韓米外交・国防長官会議で明らかになった米国の基調変化、直視するべき」(3月19日、日本語版)から引用します。

・米国務長官がソウルで北朝鮮人権はもちろん、香港・新疆の人権弾圧を具体的に取り上げて共同対応を要求したのは前例がないことだ。ブリンケン国務長官は本会談でも、北朝鮮・中国の人権に対する韓国の明確な立場表明と韓日関係改善を求めたことが分かった。
・韓国政府が従来の戦略的曖昧性だけを守って受け入れを避ける場合、大韓民国は同盟の蚊帳の外に置かれて仲間はずれの境遇に転落する公算が大きい。

 朝鮮日報の社説は主に文在寅政権が「北朝鮮の非核化」を主張しなかったことに焦点を当て、その「従北」ぶりを非難しました。「文政権が韓米共同声明に『北の非核化』を盛り込まないよう動いた」(3月19日、韓国語版)のポイントを翻訳します。

・現在、韓米同盟の最大の懸案は北の核だ。しかし韓米共同声明のどこを見てもその言葉は見当たらない。「北の核・弾道ミサイル問題が優先的な関心事であり解決する」とあるだけだ。
・米国は日本との2+2の共同声明で「完全な北朝鮮の非核化」を明示した。韓米共同声明だけから「非核化」が抜けたのは、韓国側の要求と見るほかない。「なぜ、抜けたのか」との質問に、外交部は「分量制限のため」と答える。笑うべきなのか、泣くべきことなのか。
・こうして金正恩(キム・ジョンウン)ショーをもう一度やり、次の大統領選挙で勝つことがこの政権の目標であろう。彼らは遠からず北の核の黙認とほう助という本性を現すだろう。

 両紙共に、今回の米韓2+2を通じ、中国と北朝鮮に言いなりの文在寅政権の本質が噴出した、と糾弾したのです。

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