覚せい剤の売人は本当に消えたのか? 日本最大のドヤ街「大阪・西成」を歩いてみた

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

 日本最大のドヤ街「大阪・西成」。日雇い労働者で溢れるこの地域は、かつて“シャブ中天国”と呼ばれていた。白昼堂々、スラム化した街の中を売人たちが、徘徊していたというのだ。近年は街の浄化が進んでいるとも伝えられているが、売人たちはまだ棲息しているのか――。一帯を歩いてみた。

 ***

「覚醒剤の売人は西成から出ていけ!」

 ドヤ街は、JRと南海鉄道が乗り入れる新今宮駅から徒歩1分の場所にある。一昔前までは旧地名から「釜ヶ崎」と呼ばれていたが、今は「あいりん地区」が一般的な呼称だ。この区域には、1日1000円ほどで宿泊できる簡易宿泊所が林立し、そこにすら入れないホームレスが路上や公園に溢れかえっている。

 3月上旬夕刻、街の中心部にある「三角公園」に行ってみた。まず、目に入ったのは、公園前のビルにかかった大きな垂れ幕だった。

〈覚醒剤の売人は、西成から出ていけ!〉

 街の浄化活動への強い意気込みが伝わるが、逆に言えば、それくらいこの地域に売人が住みついていたということなのだろう。

 日が暮れた公園は閑散としていた。入り口に設置された西成名物“街頭テレビ”の前には、3~4人の労働者がいるだけで、ほかはホームレスがベンチで1人ずつポツンと酒を飲んでいる程度。ギターを弾いているおじさんの歌声が響きわたる園内に、売人らしき姿はない。

 三角公園を離れ、事前にネットで調べてきた「売人の出没スポット」に向かった。堺筋沿いの「スーパーT」や萩之茶屋北公園、動物園前駅の周辺……。だが、怪しげな人物は誰一人立っていない。“立ちんぼ”と呼ばれていた売人たちは本当に姿を消したのか。

「俺、シャブ屋やっとったやん」

 そう諦めかけた時、顔が浅黒く、がたいの良い男性2人組が、知人らしき人物に話しかけているのが目に入った。

「お、久しぶり!」

 声をかけられた男性はきょとんとしている。

「覚えとらんか? ほら、昔あそこで立っとったやろ。俺、シャブ屋やっとったやん」

 男性は首を振りながら、その場を立ち去った。果たして、この2人組は売人なのか。声をかけると、

「なんや、おまえ。おー、怖い、怖い」と、行ってしまった。

 翌日、日中に再び三角公園を訪れた。夜の静けさとは打って変わり、昼間の園内は労働者で溢れ返り、カオスといった様相だ。誰に話しかければいいかわからず、しばらく観察をしていたが、これだと思った人物を見つけた。上下白のジャージで角刈りにサングラス。後ろ髪をジャンボ尾崎のように伸ばしている。

 声をかけると、男性は気安く取材に答えてくれた。

「シャブ屋か。7、8年前くらいまでは、そこら中におったけどな。もうおらへん。一気にポリ(警察)が摘発、強化しだしたからなあ。パトロールしてシャブ屋の顔を割って、防カメ(防犯カメラ)で証拠を撮ってロックオン。そうなったら商売上がったりよ」

次ページ:数年前まではそこら中に“シャブ屋”が立っていた

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。