新型コロナ、最大の敵は肥満 本人のみならず他者へのリスク要因になる恐ろしい研究結果

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「今後のグローバル経済の回復を主導するのは、アジアではなく欧米になるだろう」

 このような見方を示すのは3月2日付ウォールストリートジャーナルである。

 中国、タイ、豪州などのアジアの国々は、国境を遮断するなどの強硬な対応を行うことにより新型コロナウイルス感染の勢いを抑え、経済に深刻な打撃を受けることなく、国民はほぼ正常な生活を送っている。しかし、初期対応に成功したことで、欧米諸国がワクチン接種によりパンデミック以前の生活へと回復したときに、アジアの国々でのワクチン接種が欧米に比べて遅れ、引き続き封鎖措置を維持しなければならない状況が起きるのではないかというわけである。

 英誌エコノミストも2月下旬「欧米諸国におけるワクチン接種による集団免疫は早ければ今年中盤からできるが、日本や中国などのアジア先進国での集団免疫は来年末になる」との予測を示していた。

 非常に有効性が高いワクチンが開発されたことで楽観論が足元で広がりつつあるが、南アフリカ型やブラジル型などの新型コロナウイルスの変異種の出現が「水を差す」という展開になりつつある(3月3日付ロイター)。変異種に対応できるワクチン開発も始まっているが、このウイルスがどれだけ急速に変異していくのかはわからない。新型コロナウイルスは、一度ワクチンを接種すれば根絶できる「はしか」のようなものではなく、毎年世界で何百万人もが感染するインフルエンザのようなものになるとの認識が強まっている。

 世界保健機関(WHO)は3月1日「ワクチン接種が開始され、新型コロナウイルスの危険性を減らしていくことはできるだろうが、年内の終息を考えるのはあまりにも非現実的な期待だ」との見解を明らかにした。新型コロナウイルスは今後数年間、特に冬季に大きな被害をもたらすとの懸念が生じている最中に興味深い論文が公表された。

 世界肥満学会は3月3日、「米ジョンズ・ホプキンス大学やWHOのデータ(160カ国以上)を分析したところ、肥満者が成人の半数以上を占める国は、そうでない国と比較して、新型コロナウイルスによる死亡率が10倍高く、世界の新型コロナウイルス死者約250万人のうち、9割近い220万人が肥満者の多い国々に集中していることがわかった」ことを明らかにした。肥満者が40%未満の国はすべて、新型コロナウイルスによる人口10万人当たりの死者が10人以下にとどまっている一方、肥満者が50%を上回る国の死者は人口10万人当たり100人を超えていた。世界で最も死者数が多い米国における肥満者は人口の4分の3近くを占めている(米疾病対策センター(CDC))。

 世界肥満学会の報告を受けて、肥満の割合が世界で6番目に高い(26・9%)英国では、政府が約150億円規模の肥満対策を打ち出した。

 肥満が新型コロナ感染症のリスクファクターであることは広く知られているが、そのメカニズムが徐々に解明されてきている。

 肥満者は糖尿病を患っている割合が高いが、ロシアの研究者は今年2月、糖尿病患者の死亡率の高さの原因を解明する論文を発表した。それによれば、赤血球(へモグロビン)は通常4つの酸素と結合しているが、糖尿病患者のヘモグロビンはグルコースと結合することが多く、多くの酸素を体内の各細胞に供給できないことから、新型コロナウイルスに感染すると低酸素症に陥りやすいという。

 前述の世界肥満学会は「肥満者は優先的にワクチン接種を受けるべきである」と主張しているが、イタリアの研究によれば「肥満者はファイザー社製のワクチン接種後の抗体反応が弱い」ことが判明した。優先接種を受けたとしても肥満者の死亡リスクは高止まりするのである。

 肥満という属性は自らだけではなく、他者へのリスク要因にもなる。米ハーバード大学等が2月中旬に公表した研究結果によれば、「多くに感染を広げる『スーパー・スプレッダー』は小さな呼吸器飛沫を大量に吐き出す性質を持っており、肥満者、特に高齢の肥満者にその傾向が強い」としている。「高齢」は「肥満」とともに新型コロナ感染症のリスクファクターだが、感染拡大の原因にもなっているのである。

 ドイツ・ハンブルク大学病院付属の法医学研究所の新型コロナ関連死亡者の解剖結果によれば、「元気だったのに、コロナのせいで亡くなった人は、一人もいなかった」という(3月5日付現代ビジネスオンライン)。死亡者の平均年齢は83歳である。

 これらの事実からわかることは、肥満者と高齢者が多い先進国で新型コロナ感染症の被害が大きいということである。

 一方、発展途上国では不思議な現象が生じている。新型コロナウイルス感染者が世界で2番目に多いインドでは今年2月に入り、1日当たりの感染者数がピークを付けた昨年9月に比べて約90%も減少している(2月15日付ブルームバーグ)。生活はほぼ平常に戻っているのにもかかわらず、新型コロナウイルス用の病床は落ち着いており、「若者が多い人口構成などが幸いして、インドはワクチン接種なしで集団免疫を獲得した」と推測する専門家もいる。昨年4月頃から「若い年齢層の比重が高い発展途上国では集団免疫が獲得しやすい」との説が出ていたが、インドはこれを証明したのかもしれない。

 ワクチンを始め医療資源が乏しいことから、発展途上国の新型コロナウイルスによる被害は甚大となるとの懸念は杞憂に終わり、医療技術の水準が高い先進国で新型コロナウイルスの脅威は当分の間続くという展開になりそうである。コロナ後の世界経済についての不透明感が高まっていると言わざるを得ない。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮取材班編集

2021年3月17日掲載

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