壁新聞の地元ジャーナリストが見続けた“石巻の10年” #あれから私は

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東北が恩返しの出番

――政府の対策はどうでしたか。またこれから被災地はどうなって行くんでしょうか

「10年間、政府は予算を出してくれて確かに街は復興してきました。でももう少し、被災地が元気を出せるようになるまで産業や農業、漁業など支援して欲しいです。そうやって被災地の人たちが元気になって、これからはどんどん恩返しして行けると思うんです。あえてこれからの10年に何か言うなら、これからは東北が恩返しの出番になってくるということですね。首都直下、南海トラフ、道東など三つの大きな地震はいつ起こってもおかしくない。また必ず災害は起きる。そのときに、ノウハウを我々は10年間持ってきた。それを発揮するときが来ると思います。私がニューゼで館長をしていた時にアルバイトの30代の女性が『3日間休みをください』って言うんですね。『いいよ』と言うと『熊本地震があったので行く。震災のときにお世話になったから』と。彼女はワゴン車に乗って支援物資なども乗せて1日運転して熊本に1日いてまた1日かけて戻ってきました。私たちができることってそれなんだと」

――災害や危機管理で恩返ししていくと……

「私は東日本大震災とそこから復興へ歩む姿は日本の縮図だと思っています。特に全国の地方が抱える厳しい将来像と同じです。高齢化も進んだ、若い人が出て東京一極集中が進む、復興バブルの崩壊で地域の景気と経済が厳しい。私、地域の若い人たちと飲みながらよく話すんですが、『縮図だ。だからこそここでいろんな知恵を出して街を作ろう。成功例になろうじゃないか』と。地域に残っている若者たちは共感してくれます。ここにはうまいコメもある、魚がある、野菜がある。知恵を尽くせば何か生まれる。そんな思いで日々を過ごしています」

(注釈)「石巻ニューゼ」は震災を刻もうと2012年に石巻日日新聞が開設。手書きの壁新聞の実物と被災直後の写真も公開している。全国から来館者があり、武内氏は初代館長として、語り部としても任を果たした。

鈴木哲夫(すずき・てつお)
1958年生まれ。早稲田大学法学部卒。テレビ西日本報道部、フジテレビ政治部、BS11報道局長などを経て2013年からフリー。永田町取材30年のほか防災もライフワーク。著書に「期限切れのおにぎり~東日本大震災の真実」(近代消防社)など多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年3月9日掲載

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