事件現場清掃人は見た 閉鎖された団地で孤独死した「男性」と「押し入れの穴」の関係

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「行旅死亡人」

「押し入れの床に大きな穴が開いていたのです。穴を覗いてみると、案の定、床下一面にゴミが溜まっていたのです」

 ゴミは、床下の隅々まで溜まっていたという。

「床下でかなりの期間、生活をしていたのです。最初は床下で隠れるように寝泊まりしていたんでしょう。ところが、見つからないと思って、床下から出て部屋で暮らすようになったのでしょう。床下の高さは1・6メートルあって、押し入れの穴の下には脚立もあった。それを使って昇り降りしていたようです」

 男性は、玄関で亡くなっていたという。

「特殊清掃では、玄関まわりが主な作業場所になることが多いのです。つまり、突然身体に異変を感じ、助けを求めるも玄関先で倒れてしまう人が少なくありません。おそらく、この男性も似たようなケースだったと思われます」

 清掃には4日もかかったという。ゴミの量は2トントラックで8台分にも及んだ。

 高江洲氏にとっても、こうした事例での清掃は初めての体験だったという。

「身元が判明せず、引き取り手が存在しない死者を法律上『行旅(こうりょ)死亡人』と呼ぶそうです。字面からわかるように旅先で亡くなる場合もあれば、山林や河川で遺体が発見される場合もあります。身元がわからない状態で亡くなれば、誰でも行旅死亡人になります。自治体が火葬を行い、遺骨は無縁仏として埋葬されるそうです」

 高江洲氏は、このケースのように、空き家で人知れず亡くなる人が増えるのではないかと危惧する。

「日本ではこの数年、空き家が大きな問題になっています。このまま人口減少が進むと、一般住宅の4戸に1戸が空き家になるという予測さえあります。生活苦で、行き場を失った人たちが空き家に勝手に住み着いて亡くなる。今までになかった孤独死の形が増えるかもしれません」

デイリー新潮取材班

2021年3月9日掲載

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