オンライン面接で損する人とは? 人事のプロが教える22年卒就活の勝ち抜き術

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対話よりプレゼン能力

 これを企業側からみると、応募が増えるのは確かにありがたいことではあるのですが、増えすぎてしまうと今度は、面接担当者の動員にも限界があるので、困ることになります。そうすると起こるのが、初期選考の厳格化です。コロナ以前であれば、エントリーシートや適性検査などの最初の入口は、基本的に落とすためのものではなく、面接に備えて学生の情報を事前に収集するためのものと位置付けている企業が多数でした。

 ところが、応募者があまりに増えると、面接できる人数まで絞り込む必要が生じます。このため、22年卒からはエントリーシートや適性検査でかなりの人が「門前払い」を食らってしまう可能性が大です。ですから、今年の学生は、例年以上にエントリーシートを念入りに書く必要がありますし、適性検査、特に国語や数学などの能力試験の準備をしておく必要があるでしょう。このような初期選考対策をしておかないと、企業側に会ってすらもらえなくなってしまいます。さらに、応募者が増えることで、企業の選考は結果として粗くなってしまいます。場合によっては学校名だけでスクリーニングをかけるところさえあるでしょう。企業側にも採用にかけられるコストは限界があるため、こういうことが起こるのです。

 それゆえに、大手企業・人気企業が宝くじレベルの競争率になる可能性を考えると、最初から中小企業やベンチャーなども視野に入れて活動する方がよいでしょう。日本では99%が中小企業ですし、7割の人がそこで働いています。そして、優良な中小企業はたくさんあります。ところがそういう企業はどこも少数採用なので、「大企業が終わってから見よう」などと思っていると、中小企業の席も埋まっていってしまいます。

 初期選考をなんとか越えても、次に待っているのはこれまた完全に定着したオンライン面接です。最終面接こそリアルな対面でやるという企業がほとんどですが、1次面接は企業側の負担も軽いオンラインで行うことが一般的になりました。オンライン面接といっても、単にインターネット経由になるだけで、そう変わりはないのではと思うかもしれませんが、実は大きな変化があります。それは、これまでの対面の面接ではテンポのよい会話によって「キャッチボール」のようになされていたものが、オンラインだと「プレゼンテーション」に変わるということです。

 それはなぜか。理由は単純で、オンラインではコミュニケーションがやりにくいからです。オンラインだと、まずアイコンタクトができません。そうすると次に誰が話すのかという「話者交替」がやりにくくなります。「話者交替」は、実はアイコンタクトをすることによって無意識のうちに成り立っていたものだからです。会話がしにくいとなれば、残る選択肢は一方的に伝えるべきことを伝える「プレゼンテーション」です。面接担当者が質問をしてこなくても、相手が聞きたいであろうことを自分から話すわけです。

「キャッチボール」であれば、相手が聞いてきたことに答えていればいいだけですので、ある意味楽なのですが、プレゼンテーションとなると、自分だけで話のテーマや伝えたい内容、どこまで話すかなどを決めなくてはならず、難度が上がるため、この準備も大切になります。特に、たくさんの応募者が集まる大企業・人気企業は、オンライン面接の中でも録画面接と呼ばれる、質問も録画、回答も録画でアップするという「一発勝負」の面接を選考段階の初期に実施するところが増えています。この録画面接は、リアルタイムに会話をするのではなく、事前に用意された質問に、スマホなどで自撮りした返答を企業に送る、完全な「プレゼンテーション」ですから、最初から最後まで自分で話を構成しなければならないのです。

 また、対面であれば、雰囲気や身振り手振り、目つきやあいづちなどの非言語コミュニケーションによってなんとなく伝わっていた会社への熱意や、相手の話に対して湧いた感情などが、オンラインではなかなか伝わりません。ですから、これまでならあまり言葉にしなくてもよかったような感情、「素晴らしいと思った」「驚いた」「意外だった」などをオンラインではきちんと言葉にする必要があります。また、熱意が伝わりにくいので、志望動機なども対面面接以上に、理屈をきちんと組み立てて話さなければ説得力がなくなります。日本人は「あうんの呼吸」「以心伝心」「空気を読む」でコミュニケーションしてきたわけですが、オンライン上でのコミュニケーションは、ともかく「何でも全部言葉にする」ことが必要になるのです。

オンラインで得する人損する人

 ちなみに、まだ研究が現在進行形で全貌は定かでないのですが、対面のリアル面接とオンライン面接では、「良く見える人」が異なることが徐々に明らかになってきています。例えば、リアル面接だと、外向的で情緒の安定した人、言い換えれば明るく元気で押し出しの強い堂々とした人に高い評価がつく傾向があります。一方で、オンライン面接だとその効果が減少し、逆に内向的で敏感な人、言い換えれば穏やかで思索的、感受性が豊かで繊細な人が対面よりも相対的に高い評価がつく傾向があるようです。

 ただ、このあたりの情報は、まだ面接担当者に広く浸透しているわけではないため、ミスマッチが起こらないか懸念されています。実際、「オンラインでは明るいと思っていたのに、直接会ったら意外と暗かった」など、オンラインとリアルで人の印象に違いがあることを人事担当者の皆さんはよく言っています。つまり、誤解されたまま採用されたりすることも多くなる可能性があり、入社してから苦労するパターンもありそうです。

 以上、就職活動について昨年21年卒を振り返り、今年22年卒の予測を述べました。まとめますと、コロナ禍によって大きく変化したことは「買い手市場化」と「就活のオンライン化」の二つです。対症療法的な対策は既に述べましたので繰り返しませんが、結局のところ、このことによって起こる可能性の高い最も重大な問題は、これまで、日本で働く人と企業の間にそこはかとなく存在し、重要と思われていた信頼関係、俗に言えば「愛社精神」だとか「一体感」「仲間意識」などのウェットな関係性が失われてしまうのではないかということです。

 企業への入口の就職活動時に、ちゃんと相互理解を行い、何を目的にこの会社に入るのかを明確に意識し、腹を括って覚悟して入社する。期待し評価してもらったことに恩義を感じ、それに対して応えようとする気持ちを持つ。そういうことから、企業は働く個人に、個人は企業に対してそれぞれ愛着を持ち、貢献欲求が生じるわけです。しかし、「買い手市場化」で応募者が激増することで、企業側の選抜が粗くなりぞんざいに扱われたように感じたり、「オンライン化」で個人側の熱意や企業側の期待がなかなか伝わらなかったりというようなことになれば、そういうものは無くなってしまうかもしれません。

 そうした事態を防ぐためには、個人側も企業側も、コロナ以前より努めて相手をきちんと理解し、自分をきちんと伝える技術と姿勢を磨いていかなければなりません。コロナ禍は世界でさまざまな分断を生んでいますが、就職活動においても学生と企業の間に立ちはだかって、相互理解や信頼関係の構築を阻んでいます。ですから、たかが就活の話ではなく、コロナ禍は人と企業の関係性をも侵食するものとして、社会全体で考えていかなければならない問題ではないでしょうか。

曽和利光(そわとしみつ)
人材研究所代表。1971年愛知県出身。京都大学教育学部教育心理学科卒。95年リクルート入社後、同社人事部ゼネラルマネージャーに。開業直後のライフネット生命の人事責任者などを経て、2011年(株)人材研究所を設立。著書に『人事と採用のセオリー』『コミュ障のための面接戦略』など。

週刊新潮 2021年3月4日号掲載

特集「コロナ禍で『就活』戦線異状あり 『買い手市場』へ一変! 「オンライン面接」定着 『22年卒の地獄』を勝ち抜く術」より

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