巨人「田口麗斗」のヤクルトとのトレードが不可解過ぎる 裏に何かあり?【柴田勲のセブンアイズ】

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 巨人・田口麗斗投手(25)とヤクルト・廣岡大志内野手(23)※の1対1交換トレード成立が発表されたが、この一報を聞いた時、私、ビックリした。というのも、考えれば不可解だからである。裏に何かあるのかなとも思ってしまう。ましてや開幕まであと1カ月と迫ったこの時期だ。

 田口の年俸は7千万円、廣岡は1600万円で、格差トレードでもある。左腕の田口は高卒2年目に1軍デビューして2016、17年には2ケタ勝利を挙げている。生え抜きの成功例で、最近は主にリリーフでチームを支えてきたが、伸び悩んでいるとも評されている。

 だけど左の貴重な先発候補であることは間違いなかった。右腕の先発候補は結構いる。菅野智之、戸郷翔征、エンジェル・サンチェスの3人は当確で、DeNAからFA移籍の井納翔一、畠世周、新人の平内龍太らが後を追う。

 一方、左腕は今村信貴、3年目の高橋優貴くらいか。昨季、今村は5勝を挙げたが、高橋は1勝に終わった。クリストファー・クリソストモ・メルセデスは左肘関節のクリーニング手術を受けて、現在リハビリ中だ。横川凱も開幕ローテ入りと期待されたものの、2軍で調整となった。

 実績のある左腕は手放せないはずだ。ましてや田口は先発、ロングリリーフ、さらには抑えだってできる。ワンポイントもいける。大崩れしないし投球術も備えている。なんでもやってくれる。ベンチにすれば重宝するタイプで、困った時の「田口頼み」と言ってよかった。私、左右の違いはあるが、80年代に活躍した鹿取義隆を思い出す。

 交換相手の廣岡は今年6年目だ。右の大砲候補で本職の遊撃に加えて二塁や外野もこなせるが、攻守ともに粗削りだ。昨季は1軍で87試合に出場しているが、もっとプレーに確実性を持たせる必要がある。

 巨人はそのパワーを評価し、今年33歳になる坂本勇人の後継者候補の一人に考えているという。育てるためには我慢して使い続けることが重要だ。それができるかどうか。いまのままでは控えではないか。二塁となればほぼポジションをつかんだ吉川尚輝、そして北村拓己らとの競争になる。

 最近の巨人は、「選手を飼い殺しにしない」を掲げている。昨年は開幕後、楽天に池田駿、高田萌生を放出してゼラス・ウィーラー、高梨雄平を獲得した。また田中貴也捕手を金銭トレードで楽天に送った。ロッテとは澤村拓一を香月一也と交換トレード、オフには山本泰寛を阪神に金銭トレードで放出した。

 池田、高田は2軍に埋もれていたし、田中貴、山本にもチャンスを与えることになった。澤村の場合は原辰徳監督が見切りをつけたというのが本当のところだろう。16年のオフ、日本ハムに移籍した大田泰示は常にマスコミに注目される巨人ではダメ、伸び伸びやれる環境の方がいい。こんな理由があった。

 だが、今回の田口に関してはなんかスッキリしない。春季キャンプ中に右太もも裏の張りで離脱したが順調に回復していたという。キャンプで出遅れても開幕に間に合えば、どうでもいい。肩を壊したという話も聞かない。伸び悩んでいるから環境を変えた? 素直に頷くことができない。

 原監督はリーグ3連覇、そしてその先にある日本一を目指して「投手陣の充実」を強調していた。だからこそ、桑田真澄を連れてきて投手陣の上積みを図ったのではないか。田口は確かに伸び悩んでいたことは否めないが、これまでの実績はあるしまだ25歳だ。伸びしろが十分にある。何度も言うが、ベンチにとってはありがたいタイプである。

 ヤクルトは万々歳だろう。昨季のチーム防御率は4・61でリーグ最下位だ。投手陣の再建がカギになっていた。しかし、開幕投手こそ小川泰弘に決まったようだが、あとはハッキリしていない。再建は思ったようには進んでいないという。即戦力・田口の加入で一息ついただろう。

 ちなみに両球団の交換トレードは1976年12月のヤクルト・浅野啓司投手と巨人・倉田誠投手以来、約44年ぶりだという。

 実はこの年のオフ、私のトレード話が浮上してオフの主役となった。私、トレードに出されたら辞めようと決めて球団に伝えた。「巨人一筋」を貫きたかった。結局、私のトレード話は立ち消えとなった。

 このいきさつは前回の今コラムで記したが、断った私の代わりにヤクルトに移籍したのが倉田だった。

 まあ、同一リーグ同士のトレードはやりたがらないものだ。チーム事情が筒抜けになってしまう。それが今回は開幕を1カ月後に控えてのものだ。

 おそらく球団ではなく原監督が発案したと思う。球界の活性化を訴えている同監督だが私には不可解に映る。最後になるが、田口には移籍したからには頑張れと声を掛けたい。

 ※智弁学園高から15年ドラフト2位でヤクルト入団。16年9月にセ・リーグの高卒新人としては56年ぶりとなる初打席初本塁打をマーク。大砲として期待されたが昨季は打率.215。5年間の通算も同.214、21本塁打、54打点。183センチ、81キロ、右投げ右打ち。

柴田勲(しばた・いさお)
1944年2月8日生まれ。神奈川県・横浜市出身。法政二高時代はエースで5番。60年夏、61年センバツで甲子園連覇を達成し、62年に巨人に投手で入団。外野手転向後は甘いマスクと赤い手袋をトレードマークに俊足堅守の日本人初スイッチヒッターとして巨人のV9を支えた。主に1番を任され、盗塁王6回、通算579盗塁はNPB歴代3位でセ・リーグ記録。80年の巨人在籍中に2000本安打を達成した。入団当初の背番号は「12」だったが、70年から「7」に変更、王貞治の「1」、長嶋茂雄の「3」とともに野球ファン憧れの番号となった。現在、日本プロ野球名球会副理事長を務める。

デイリー新潮取材班編集

2021年3月3日掲載

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